【インタビュー】『我々は宇宙人』門脇康平監督が語る、主人公に投影した“あの頃の記憶”と創作の原点
坂東龍汰と岡山天音がW主演を務める長編アニメーション『我々は宇宙人』が、9月25日(金)から全国公開される。
本作は、第79回カンヌ国際映画祭・監督週間、第50回アヌシー国際アニメーション映画祭・長編コンペティション部門をはじめ、海外映画祭に次々と選出。公開を前に世界中から大きな注目を集めている。
この度、ハリウッド・リポーター・ジャパンは、門脇康平監督へのインタビューを実施した。
「ピーピロリロリロ。地球での極秘任務完了。宇宙へ帰還します!」
平成のある田舎町。内気で普通であることに悩む少年・翼は、小学三年生の春、クラスの人気者で特別な存在の暁太郎と出会い、親友になる。二人だけの遊び、意味のない会話、夕暮れの帰り道。世界は確かに、彼らのものだった。
しかしある日を境に、暁太郎はクラスの中で浮いた存在となり、噂や視線が彼を囲んでいく。やがて起こる、取り返しのつかない事件。
「もしもさ、俺が宇宙人だったらどうする?」これは二人の青春物語なのか、それとも消したい記憶なのか。30年にわたる友情を描いた、かぎりなく青い旅立ちの物語。
企画・脚本・監督を手がけたのは、YOASOBI『優しい彗星』のMVなどで知られる門脇康平。本作は、門脇にとって初の長編アニメーション映画となる。
初恋の記憶、ごめんねと言えなかった後悔、眩しかった夏の日々。門脇監督は記憶の中にある「あのときの空気」を、リアルな質感が息づく唯一無二の映像美で描き出した。
本インタビューでは、翼と暁太郎に投影した自身の経験、夏に重ねた人生観、ロトスコープを取り入れた映像表現、そして本作に込めた思いについて語ってくれた。
カンヌ国際映画祭で見えた新たな景色「この作品を観てくれる人は世界中にいる」
――第79回カンヌ国際映画祭監督週間でのワールドプレミア上映後、観客の反応など印象に残っているエピソードはありますか。
門脇康平監督(以下、門脇):上映後のスタンディングオベーションでは、観客みなさんの顔が見えるのですが、目を潤ませてこちらに向かって拍手を送ってくださる方が大勢いました。
この作品を海外の映画祭に出品したいという目標は当初から持っていましたが、カンヌで観客の反応を目の当たりにして、自分が無意識に「日本のお客さんに喜んでもらうこと」をゴールにしていたことに気付いたんです。
そこで初めて、本作を観てくれる人は世界中にいることを実感しました。カンヌの前と後では自分の中の意識が大きく変わったと思います。

――カンヌ上映後の海外レビューでは、日本社会における同調圧力を描いた作品だという声も目立ちました。監督はそうした解釈をどのように受け止めていますか。
門脇:「そういう解釈もあるんだ」と自分自身が教えてもらう感覚でした。同調圧力に関して、それをあえてメッセージとして伝えようと意図していたわけではありません。
自分が描きたいものを表現した結果、その視点がある意味で自分自身の社会への眼差しとなり、同調圧力や日本社会におけるさまざまな問題を自然と浮かび上がらせたのだと思います。
――YOASOBI『優しい彗星』のMVをはじめ、これまで手がけてきた作品での経験は本作でどのように生かされましたか。
門脇:ミュージックビデオの制作と同じソフトを使ったので、これまでの経験を生かすことができました。
ソフトの使い方や、「こういう絵を実現したいときは、どのツールを使えばいいのか」といったことを一から学ぶ時間を短縮できたんです。限られた制作期間の中ですぐに制作に取りかかれたのは、ミュージックビデオを作り慣れていたおかげだと思います。
――プロデューサー林健太郎さんが映画レーベル「NOTHING NEW」を立ち上げるのと並行して、絵コンテ制作を始めたそうですね。制作を進める上で大変だったことはありますか。
門脇:大変だったことは、毎日スタジオに通わなければ制作が進まないスタイルにしたことです。スタジオは画塾のようでした。まずアニメーターに描いてもらって、自分が隣に座って「ここはこうやって描くんだよ」と教えながら加筆する。それを何度も繰り返して、原画や背景を完成させていきました。
外部のスタジオに発注するのではなく、コミュニケーションを大切にして一緒に作り上げていく方法を選んだのです。最初は3人でのスタートでした。そこから一人ずつ加わり、最後の1年で一気にスタッフが増えていきました。

――原画が8割ほど完成した段階でクラウドファンディングを行い、さらに細部を作り込んでいったそうですね。改めて制作を振り返って、特に難しかった点はありますか。
門脇:子どもの役を、実際に子どもたちに演じてもらったことですね。シーンに合った声を発するだけでなく、走ったり踊ってるときの息遣いや声の揺れまで表現しなければならない。そこに二重の難しさがありました。足音が入らないように靴を脱いでもらい、床に毛布を敷いて実際に走りながら収録したり。アクションをつけながら録ると、雑音が入ったり、耳に付けたマイクが外れたり技術面でも苦労しました。
演技でも難しさがありました。「本当は好きだけど気持ちを隠している」というような複雑な感情は、経験していないと表現するのは大変ですよね。一つひとつのセリフに対して、どう伝えれば求めている声を引き出せるのか考えながら演出していきました。
翼と暁太郎に投影した、少年時代の記憶
――坂東龍汰さんと岡山天音さんとは、演技についてどのような話し合いをしたのでしょうか。
門脇:レコーディング前に事前に打ち合わせをして、絵コンテを映像化したVコンテをお渡ししました。事前に目を通してもらって、物語の文脈を把握した上で収録に臨んでいただくよう全員にお願いしました。
――主人公の翼と暁太郎には、監督ご自身の一部が投影されていると過去のインタビューでお話しされているのを拝見しました。それぞれのキャラクターにどのような感情を託したのでしょうか。
門脇:子どもが大人になるにつれ、普通の子と変わっている子のポジションが逆転する時期があると思うんです。小学校1年生くらいの頃はみんな個性的ですが、中学生くらいになると周囲に馴染める普通の子が良いとされ、そこから外れると浮いてしまう。遊びに誘われなくなったり、仲間外れにされたり、「普通であることが良い」という空気がだんだん強くなったように感じました。
自分は浮いている側にいて疎外感に悩んだ経験もあるし、普通のグループに入るために普通の子を演じていたこともあります。それまで仲良かった友人を「あいつ変だよね」と言ってしまったときには、気まずさと同時に優越感を覚えたこともある。逆に、親友だと思っていた子が違うグループに行ってしまう寂しさも経験しました。
自分がさまざまな立場で感じた感情を分かりやすくストーリーにするため、翼と暁太郎それぞれに投影していきました。
――作品を拝見して、『我々は宇宙人』というタイトルには周囲との違いや馴染めない人たちの姿が重ねられているように感じました。タイトルにどのような思いを込めたのでしょうか。
門脇:『我々は宇宙人』という言葉は、たまたま降ってきたんです。ふと思いついたときには、すごくいいタイトルだなと思いました。タイトルが決まったことで、「こういうシーンを入れよう」と実は後から足した部分もあります。

劇中でタイトルが出るタイミングが少し特徴的なのですが、作品を見る前、タイトルが現れたとき、そして観終えたときの3回それぞれに、違う意味を感じてもらえたらと思っています。多層的なものにしたいとずっと探していた中で、たまたま浮かんだ『我々は宇宙人』という言葉が条件にぴったり当てはまりました。
「夏は一番眩しくて、でも人生を閉じていく寂しさがある」
――物語の節目に夏があり、翼と暁太郎の同級生も小夏という名前で「夏」がひとつのキーワードのように感じました。監督にとって特別な思い入れがあるのでしょうか。
門脇:夏至の日は自分にとって味わい深い日なんです。一年で最も昼が長い日でありながら、次の日からは今日よりも確実に日が短くなっていきます。
人生で考えたとき、それぞれの人にとって人生の夏至はいつなんだろうって。大学時代、親になったとき、小学生の頃かもしれない。人生の中には、その人にとっての夏至と呼べる時期が、きっとどこかにあると思います。
一年で一番眩しくて多幸感があるのに、同時に死に向かって人生を閉じていく寂しさもある。その幸せと寂しさが同居する、夏至の味わいを持つ作品にしたいと思いました。
小夏という名前に惹かれたのも、夏という言葉に幸せと寂しさの両方を感じたからです。夏という漢字を見たり、夏の景色を眺めていると、最も輝いているのにここから終わりへ向かっていくような印象を受けます。

――本作を生み出すきっかけとなった原体験や実際の経験はありますか。
門脇:原体験として強烈だったのは、やっぱり初恋ですね。その描写はあまり脚色しないで、初恋で経験したことや感じていたことを作品に投影しています。
劇中に出てくる「多分嘘だよ」とか「プロじゃね?」といった子どもたちのセリフの多くは、過去に自分も言った記憶がある言葉を作品に取り入れました。
――「ごめんね」と言えなかったことが、大人になっても後悔や罪悪感として残り続けることがあります。本作では、そうした消えない後悔や罪悪感をどのように描こうと考えたのでしょうか。
門脇:罪悪感をリアルに描こうと思いました。自分は中学生の頃に「悪いことをしたな」と思ったまま、絶縁した友人のことを未だに思い出すんです。「自分のあの行動が良くなかったんじゃないか」と考える一方で、「あれから15年経ったからもう時効かな」という感情も自然と生まれてきている。そのリアルな感情とともに罪悪感を表現したかった。大切にしたのは、自分が信じられる嘘のない描き方でした。

アニメーションとロトスコープで描き出す、あの頃の懐かしさ
――2Dアニメーションとロトスコープを組み合わせていますが、どのような表現を目指したのでしょうか。
門脇:目指したのは、観客が昔の自分や友達を見ているような懐かしさを感じられる表現です。リアルさにもこだわりました。子どもは無駄な動きをするし、手すりが汚いかどうか気にせず触りますよね。そういう細やかな手癖や動きは、ロトスコープの長所を生かして丁寧にすくっていきました。
そこに、伝統的なアニメーションの持つ伸びやかで気持ちのいい動きを取り入れています。この2つを掛け合わせて、心地いい感覚と懐かしさを直感的に感じる表現を目指しました。
※ロトスコープ:実写映像を1コマずつトレースしてアニメーションを作成する技法。人間の動きを基にしているため、リアリティのある動きが再現できる。
――動きのリアリティや質感にこだわったとのことですが、その表現を実現する上でアニメーションだからこそできる強みは何だと考えていますか。
門脇:自分が20年前に見た景色を、今もう一度撮りに行くことはできないですよね。実写の場合、似た場所を探して撮影するしかありません。
でも自分の記憶の中には、「あの日はこういう空の色をしていて、こんな雲が浮かんでいた」「奥にはこのくらいの密度で電柱や送電鉄塔が見えて、赤い光が点滅していた」「虫はこんなふうに飛んで、アジサイはこのくらい枯れていた」という鮮明な光景が残っています。
この条件がすべて揃って初めて、20年前に見た景色を復元できる。もう戻ることのできない「あのときの空気感」を完全に再現するために、アニメーションが最もその空気感に近づける表現手段だと思います。

――雨の中で対峙するシーンは、実際に俳優さんが演じた動きをもとにアニメーションにしたそうですね。撮影を振り返って印象に残っていることはありますか。
門脇:あのシーンは自分が演じた部分もありますし、坂東さんと岡山さんと体格の似た俳優さんに協力していただいて、雨を降らせながら作画の参考となる映像を撮影しました。
自分が思い描いていた光景を実際に見ると、水を吸った洋服を着続けている姿は想像以上に寒そうで痛そうでした。目の前で見ると、かわいそうで涙腺にくるものがあって。そのときの直感的な感覚を、ちゃんと絵に落とし込みたいと思いました。想像するだけでは得られなかった感情を、実際に見て感じられたことは作画する上で大きな手がかりになりました。
――作画と背景の境界を無くして、一体となった情景を描き出すことを大切にされたそうですね。
門脇:キャラクターが今すぐ背景に触れ、影響を与えられる可能性を感じられる表現かどうかで、作品を観たときの余韻に大きく差が出ると感じていました。
自分が世界をどういう視点で見ているのかを描くことが、この作品のテーマの一つでもあります。なので、キャラクターを強く描くとか、背景の美しさを強調するのではなく、キャラクターがその場所に立っている情景そのものを描きたかった。そのためにはキャラクターと背景の一体感が必要でした。
キャラクターと背景の画材や線があまりにも違うと、キャラクターが背景の花や壁には触れないものだと観客は無意識に感じてしまいます。そうなると背景はただの背景にしかならない。
そうならないように、背景もキャラクターと同じ線を使い、背景の密度に合わせてキャラクター側にも必要な情報量を加えました。

「スクリーンの世界への憧れを、生きる希望に」――作品に込めた願い
――作画と背景の一体感が出ることで没入感もより深まるように感じました。そうした映像体験を通して、観客にどのような感情を持ち帰ってほしいですか。
門脇:この作品には、幸せな時間もツラい時間も、美しいものも汚れたものも映っています。それだけ様々な描写があるのに、なぜ画面の中の世界に憧れるんだろう。そんな感情を味わってもらうことを目指しました。
そして映画館を出て外の空気を吸ったとき、さっきまでスクリーンの中で憧れていた世界は、今自分が生きている現実の世界と何も変わらないことに気づいてほしいんです。
「このスクリーンの中で生きたい」という感情になったのなら、現実の世界でも前向きに生きてみようと思えるかもしれない。憧れの世界に見えたのなら、生きる希望になり得ると思うんです。そんな感覚を持ち帰ってほしいというのが、この作品に込めた大きな願いです。
――最後に、これから『我々は宇宙人』をご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。
門脇:5年間の集大成となる作品です。自分やプロデューサーさん、アニメーターさんをはじめ、本当に多くの方がこの作品に大切な時間を捧げてきました。
それだけの思いがつまった本作を、映画館という快適な環境で鑑賞できるのは最高の2,000円の使い方だと思っています。ぜひ劇場で見ていただきたいです。
【作品情報】
『我々は宇宙人』

企画・監督・脚本:門脇康平
キャスト:坂東龍汰、岡山天音、山﨑天(櫻坂46)、松井ケムリ、槙木悠人、中込佑玖、鈴木咲、末永陽
音楽:Yaffle
主題歌:adieu「ささくれ」 作詞・作曲:Yaffle(Sony Music Labels)©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
配給 :TOHO NEXT・NOTHING NEW
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
公式サイト:https://nothingnew.film/wearealiens/
9月25日(金)全国劇場公開
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