ベン・アフレックが語る、新作『AIR/エア』、最後の“バットマン役”でDCと決別: 「私は私なんだ」
今から25年前、マット・デイモンと共同執筆した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で、アカデミー賞脚本賞を史上最年少で受賞したベン・アフレック。その後、『ゴーン・ベイビー・ゴーン』で監督デビューを飾り、2013年には自身が監督・プロデュース・出演した『アルゴ』で作品賞を手にした。
そんな輝かしいキャリアの裏で、親友のデイモンと映画製作会社“Artists Equity”を共同で設立。デイモンは「ベンと私は30年以上この業界にいる。だからこそ、皆にとって本当に重要なことが分かっている」と語っている。2人が最初に手掛けるのは、マイケル・ジョーダンと“ナイキ”のコラボレーションを描いた物語『AIR/エア』(日本公開は4月7日)だ。ジョーダンの母親役を務めたヴィオラ・デイヴィスからは「ベンは本当に思いやりがある監督。まさに最高の経験の1つでした」と称賛の声が上がった。
そんなアフレックに米THRがロングインタビューを実施。キャリアの紆余曲折、DCとの決別、妻ジェニファー・ロペスからのアドバイスなどについて赤裸々に語った。
Q: マット・デイモンとは40年来の友人ですね。長期的な関係を維持する秘訣は?
信頼関係があって、マットのことを愛しているからね。こんな友情が基礎にあることは、とても意義があることだ。『最後の決闘裁判』がきっかけで、一緒に会社を作ることになった。今後もずっと2人で仕事を続けていきたい、という思いがあったんだ。というのも、マットと私は“個性を出していかないと、この先お互いに縛り付けられることになる”という忠告の毒牙にかかっていたからね。
Q: そんな忠告があったんですか。
そうなんだ。「グッド・ウィル~」にマットと出演したのは、俳優として役が舞い込むことを期待してのことだった。2人とも脚本家を目指していたのではない。『アルマゲドン』1本で、教師だった母の20年分の給料を稼いだのを覚えている。俳優の仕事をして、とにかくチャンスを掴むことが大事なんだ。自分が思い描くキャリアにおいては、断った仕事が時を経て大きな意味を持つことがあるからね。
Q: 監督、父親、夫、さらには経営者としての顔をもつに至った理由は?
まず、妻にはオフの時間がほぼないんだ。だから彼女と過ごす時間は最高だね。映画の仕事がいくつも来ても、遠い外国で撮影するものがあったりする。自分で映画を撮るのは、離婚していて親権を有しているということが理由の1つ。LAにいれば、仕事をしつつ子供の野球の試合を見に行くことだってできる。子供たちとの時間は、必ず確保しているよ。
Q: 上手くいっていますか?
皆、私のことを真摯に受け止めてくれている。俳優として“彼は本気じゃないよ”という目で見られるけど、業界では非常に重要視されていることなんだ。両親は、一度も野球の試合に来てくれなかった。けれど、現代の子育てにおいては、それぞれ別の学校に通う3人の子供たちの活動を見守ることは、立派なフルタイム勤務の仕事だと言えるよ。
Q: 映画業界の過渡期に会社を立ち上げられましたね。
『ザ・ウェイバック』が公開された時、悟ったんだ。ちょうどコロナ禍で映画館が閉鎖された時期と重なってしまった。でも、コロナは言い訳にならない。子を失って、離婚して、アル中になった男の話なんて誰が観たいんだって思った。今はTVにも『オザークへようこそ』とか『ゲーム・オブ・スローンズ』など素晴らしい作品が存在している。親がどっちも俳優なのに、私の17歳の娘からは“映画って真の芸術なの?”といった発言が飛び出すこともある。とにかく、やってみることにしたんだ。“こういう類いの映画はもうウケないけれど、これこそ私が好きな映画なんだ”って感じでね。
Q: 反対に、好きではないタイプの映画は?
『ジャスティス・リーグ』だね。同じ物語の繰り返しって感じで、面白みを感じない。バットマン役として『The Flash(原題)』は上手くいったと思う。自分に合ったバットマン像を築かなければならなかった。ところで『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は楽しかったよ。
Q: 『ジャスティス・リーグ』は、何がダメだったんでしょうか?
ジャスティス・リーグか… 理由を全部挙げると、セミナーを開けるくらいだね。プロダクションや悪い決断、それに悲劇もあったりして後味は最悪だった。希望の光は、天才ザック・スナイダーだった。最終的に“4時間の作品なら提供できる”とザックが会社に言って、彼の家の裏庭で一緒に撮影したこともある。それが今や『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』となって、私のフィルモグラフィーで最も高いIMDb評価を獲得しているよ。
Q: スナイダー監督がネット界隈で熱い支持層を抱えているからでは?
とにかく、スナイダー版「ジャスティス~」が一番高評価なんだ。振り返ると、ヒット作だからね。私は『Batman(原題)』を監督する予定だったが、『ジャスティス・リーグ』(ジョス・ウェドンがスナイダーに代わり監督を務めた)のせいで“もうこんな仕事はしたくない。私には合わない”と去る羽目になった。本当に最低最悪の経験だった。その頃は、酒を浴びるように飲んでいた。“こんな人生は望んでいない”と思わされた。ゴムのスーツに身を包むより、楽しい仕事がしたかった。身体が消耗しきっていたんだ。そして思った。“もう、これに1ミリも関わりたくない。人生を無駄にしたくない”ってね。
Q: DCから監督の依頼が来たらどうしますか?
ジェームズ・ガン指揮下のDCで何かを撮るつもりはない。ガンに対して何とも思わないけれど、単純に今のDCのスタイルが合わないだけなんだ。
Q: 『AIR/エア』の製作にあたり、ジョーダン氏とは連絡を取りましたか?
マイケルとはたまにトランプをするくらいの仲だった。共通の友人はいるけどね。彼は私にとってヒーローだ。それに、特にアフリカ系アメリカ人のコミュニティーにおいて彼がどれだけ重要な人物か分かっている。だからこそ、求められるのは聖人伝ではなく、とにかく正しく作ることだった。マイケルは、比類なきカリスマ性とパワーを纏っている。そして連絡を試みると「いいよ。ゴルフコースにおいで」と言ってくれたんだ。あくまでも『AIR/エア』は公認のマイケル・ジョーダンの物語ではない。私としては“マイク、ちょっとでも不満な所があれば、この映画はナシだ”という心持ちだった。マイケルは、元々脚本にはなかったハワード・ホワイト(ナイキの重役)や彼の母親の話を教えてくれた。母親について彼と話したことは、非常に感動的だった。その時悟ったんだ。“これはナイキの映画ではない”ってね。
Q: ヴィオラ・デイヴィスのキャスティングについて教えてください。
私もマイケルも、ヴィオラを希望していたんだ。彼女は世界最高の俳優の1人だと思う。“ヴィオラ・デイヴィス、彼女が私の母親だ”とマイケルは極めて真剣だった。議論の余地はなかったね。ヴィオラには、とにかく丁重にお願いするしかなかった。“準備が整ったら連絡をください。私たちは待っています”という感じだった。というのも、マットと脚本を書いていて、妻からセリフの案を貰ったりして、どんどん改善していったからね。
Q: ジェン(・ロペス)からの提案とは?
彼女は、本当に素晴らしくて、ファッション文化に加えあらゆることに精通しているんだ。歴史的に見ても、アメリカの文化の90%は、ブラックカルチャーによって形成されてきたことも教えてくれた。白人が経営している“ナイキ”は、マイケル・ジョーダンという象徴から価値を得ていた。“やあ、我々は良い靴なんだ”から“マイクが持ってるなら、君も欲しいだろ”にシフトしていくんだ。
Q: 白人の映画製作者としてこの物語を語ることへの思いは?
まず前提として、この作品の核は白人が利益のために黒人文化を盗用することではない。あくまでも、それは複数の要素の1つに過ぎない。けれど、映画の中でその事実を無視することはなかった。ヴィオラやクリス(・タッカー)など、私よりも知識がある人に助けてもらったんだ。クリスはモノローグやシーンの案を出してくれた。強調しておきたいのは、クリス・タッカーはマジで最高のライターだということだね。
Q: 会社の描写について、ナイキとはどんな話をしましたか?
ナイキの歴史を描いた物語ではないし、会社と話したことはない。インタビューや本が存在しているからね。
Q: Amazonは『AIR/エア』を劇場公開します。配信と劇場公開、どちらを想定していましたか?
ドラマ作品だから、ストリーミングになると思っていた。『ザ・ウェイバック』を劇場公開して、苦い思いをしたからね。『ザ・ウェイバック』はiTunesに流れたことで、人々から多くの反応を貰った。“とにかく皆に映画を観て欲しい。映画館は本当に大好きだけど…”と思ったよ。今は物凄いプレッシャーを感じている。上手くいくといいね。
Q: インスタグラムはやらないんですか?ジェンは活用していますね。
彼女はインスタに関しては天才だね。今朝、インタビューの前に彼女と話す時間があった。私は過去の経験のせいでガードが固くなり過ぎているんじゃないか、というのが彼女の見解だった。それは当たっている。地雷を踏むみたいに、ちょっとでも間違ったことを言えばキャリアが終わってしまう、と考えてしまうんだ。
Q: 過去のインタビューで、元妻ジェニファー・ガーナーとの破局が飲酒につながったとされていました。
私は、自分の酒の問題を当時の妻のせいにしていた。でも明らかに、行動の全責任は自分にある。私たちは愛し合っていたし、お互いをリスペクトしていた。私が伝えようとしたのは“大量の酒を飲んでいた。それが結婚でも仕事でも、不幸が募るほど人生がキツくなるだけなんだ。健全ではないやり方で穴を埋めようとすると、余計依存し始めてしまう”ということなんだ。そして『ニューヨーク・ポスト』のクリックベイトのせいで、多くの誤解を生んでしまった。何度も言ったよ。“私はこんなこと思っていない。アルコール依存症は元妻のせいじゃない”ってね。とにかく、妻(ジェニファー・ロペス)は“あなたらしく、楽しんでおいで”と今日言ってくれた。彼女は私を愛してくれている。だから彼女の言うことに耳を傾けるべきだね。
Q: アルコール依存症を公表したことで、どんな影響がありましたか?
俳優として、アルコール依存症から回復するまでの象徴の1人になったんだ。人から“ちょっと助けてもらえますか?”と言ってもらえるようになったのは、本当に気分が良いよ。他の人を助けることで、自分自身を助けることができる。誰かのシンボルになる必要なんてない。アルコール依存症はつねに“アノニマス”(=匿名)なんだ。
q: 『AIR/エア』でナイキの創設者フィル・ナイトを演じた感想は?
フィルは興味深い男だ。禁酒会での有神論に懐疑的になったことで、私は仏教に興味を持つようになったんだ。仏教の好きなところは、自分が信じるものを信じるということ。フィルは、仏教や東洋哲学に加え、容赦ない資本主義者としての側面についても話している。多面的な人物を演じるのは楽しいよ。車で靴を売っていた人物が、大企業の経営者になる、という非常に大きな変化には緊張感が存在している。フィルは、マイケル・ジョーダンとの契約に二の足を踏んでいたが、結局は踏み切ることになるんだ。ベガスで行った試写では、観客の受けが良くて嬉しかった。でも、まさか観客がフィル・ナイトにスタンディングオベーションをするとは予想していなかったよ。この文化では、資本主義者が崇められるという事実を証明したと思う。
私が尊敬するポール・トーマス・アンダーソン監督にも『AIR/エア』を観てもらった。彼は“面白いね。この映画が好きだよ”と言う感じだったね。私は“これって傑作なのかも?”と思ったよ。何せポールは本当に天才だからね。映画製作を知り尽くした人だ。たまに“私は、あなたがどのくらい素晴らしいか分かるくらいの能力はある”みたいな気分になるよ。ほら、これがありのままの私だ。また、そのうちクリックベイトになるかもね。
※インタビュー内容は、要約・抄訳です。初出は、米The Hollywood Reporter誌(3月16日号)。購読はこちら(英語版)。翻訳/和田 萌