実写版『ルックバック』米レビューが到着 是枝裕和は藤本タツキの物語をどう実写化したのか――出口夏希×蒔田彩珠が描く13年間
是枝裕和監督が藤本タツキの人気漫画を実写映画化した『ルックバック』。出口夏希と蒔田彩珠が演じる2人の少女の友情と創作、そして喪失を、四季の移ろいとともに丁寧に描き出す。第83回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品された本作の米レビューが到着した。
『ルックバック』米レビュー|是枝裕和が描く、2人の少女と漫画の出会い
子どもたちの姿を見つめてきた是枝裕和監督の演出が、藤本タツキの原作漫画と鮮やかに重なる。本作は、地方の町で暮らす2人の少女、藤野と京本の約13年間を追う物語だ。2021年に発表された原作は大きな反響を呼び、2024年には劇場アニメ化。今回の実写版は、藤本作品として初の実写映画化となる。
小学4年生の藤野は、学級新聞に4コマ漫画を連載し、クラスメイトから称賛されることに自信を持っている。ところが、同じ学校に通いながら不登校になっている京本の漫画が新聞に掲載されたことで、その自信は大きく揺らぐ。
京本の圧倒的な画力を目の当たりにした藤野は、絵の上達を目指してひたすら練習する。しかし、努力を重ねても京本との差は縮まらない。やがて藤野は漫画を描くことそのものを諦める。
そんな2人の関係が大きく変わるのが、藤野が卒業証書を届けるため京本の家を訪れたときだ。部屋にこもっていた京本は、藤野の漫画をずっと愛読していたことを明かし、「藤野先生」と呼んでその才能を称える。
それまで競争相手だった2人の間から、いつしか対抗意識は消えていく。漫画を通じて意気投合した2人は、一緒に作品を作り始める。藤野がキャラクターを担当し、京本が背景を描く。それぞれの得意分野を生かしながら、2人は漫画家として成長していく。
『ルックバック』を彩る、美しい四季と創作の時間
本作で印象的なのは、藤野と京本の関係を、移り変わる季節とともに映し出していることだ。
春には桜が咲き、夏には風に揺れる草原が広がる。秋には紅葉が町を彩り、冬には雪が一面を覆う。自然豊かな風景の中を2人が手をつないで走る姿には、漫画を描くことへの純粋な喜びと、かけがえのない青春の時間が刻まれている。
藤野が自然の写真を撮り、京本に背景画のアイデアを与える場面も、2人が単なる「漫画仲間」ではなく、互いの創作を支え合う存在になっていくことを静かに伝える。
是枝監督と撮影監督の上野千蔵は、漫画のペンや筆による繊細な表現を、柔らかな光と淡い色彩、自然の質感によって実写の世界に置き換えている。現実の風景を丁寧に撮りながら、物語が現実と想像の境界を越える場面では、アニメーション的な表現も取り入れる。
原作漫画と2024年のアニメ版が持つ独特の美しさを、そのまま再現するのではなく、実写ならではの方法で別の形へと変換している点が興味深い。
出口夏希と蒔田彩珠、2人の成長を自然に表現
藤野と京本を演じる出口夏希と蒔田彩珠に加え、子ども時代を七瀬ふうりと岡田六花が演じる。年齢によってキャストが交代するにもかかわらず、その変化はほとんど違和感なく受け入れられる。
特に、幼い頃の藤野と京本から、出口と蒔田が演じる中学生、高校生へと移行する流れは滑らかだ。時間の経過を説明するのではなく、2人の表情や距離感、会話の変化から成長を感じさせる。
これは、長い時間の中で人間関係の変化を描いてきた是枝監督の演出とも相性がいい。若い俳優たちから自然な表情を引き出す手腕も健在だ。
藤野と京本は17歳になる頃には、2人の名前を組み合わせた「藤野キョウ」の名義で漫画を発表し、読者を獲得するまでになる。藤野にとっては、このまま2人で漫画家として歩んでいくことが当然の未来だった。
しかし、京本は美術学校への進学を決める。藤野の存在を通して外の世界とつながってきた彼女にとって、それは自分自身の力で世界と向き合うための一歩でもあった。
その決断を受け入れられない藤野は、京本に対して傷つけるような言葉をぶつけてしまう。2人の関係に生じる亀裂は、それまで積み重ねてきた幸福な時間を知っているからこそ、痛みを伴う。
喪失を経て浮かび上がる「創作すること」の意味
物語後半では、2人の人生を大きく変える出来事が起こる。原作でも重要な意味を持つこの展開は、2019年に起きた京都アニメーション放火殺人事件を想起させるモチーフとして、発表当時から大きな議論を呼んだ。
ここで是枝監督は、時間や記憶を直線的に描かない。過去の思い出や、「もし違う選択をしていたら」という想像が入り混じり、藤野と京本が過ごした時間を別の角度から浮かび上がらせていく。
海辺の場面では、2人が漫画から飛び出してきたような幻想的な姿へと変化する。現実の喪失を描きながら、創作によって別の可能性を想像するという『ルックバック』の核心が、ここで強く表れる。
一方で、原作の短い物語を約100分の実写映画へと膨らませたことで、ところどころ物語のテンポが緩む印象もある。2024年の劇場アニメ版が短い尺の中で原作の魅力を凝縮していたのに対し、実写版では場面をじっくり見せることによって、やや冗長に感じられる部分もある。
坂東祐大による感傷的な音楽も、感情を強く押し出す場面では少し説明的に響く。ただし、紙の上を走る鉛筆やペンの音、タブレットをタップする音など、創作の「音」に耳を澄ませる瞬間には、本作ならではの繊細さがある。
そして最後に訪れる静かなショットは、原作のイメージを受け継ぎながら、喪失と、それでも創作を続けることの意味を凝縮する。悲しみを消し去るのではなく、創作という行為によって抱えながら生きていく。その余韻が静かに残る。
『ルックバック』は、子どもたちを主人公にした青春映画として見ることもできる。しかし、漫画を描くことへの情熱、誰かと出会うことで生まれる変化、そして取り返すことのできない喪失を描く物語は、大人の観客にも強く響く。是枝裕和監督が藤本タツキの原作に向き合うことで生まれた、繊細で美しい実写映画だ。
映画『ルックバック』は9月11日(金)より全国の劇場で公開される。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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