Netflixドラマ『セイレーンの誘惑』レビュー:ジュリアン・ムーア出演、中途半端な“富裕層ポルノ”

モリー・スミス・メッツラー(『メイドの手帖』)が手がけたNetflixの新作リミテッドシリーズ『セイレーンの誘惑』(全5話)は、階級風刺、メロドラマ、スリラー、そして「富裕層ポルノ」といった非常に広範な要素を強引に寄せ集めた作品だ。
特に序盤の数話では、メッツラーがあまりにも異なる要素に果敢に挑んでいることにある種の好感を抱いたが、それらの要素は表面的な皮肉以上のものとして統合されることがない。その時点で関心はもっぱら、十分に活かされていない実力派キャスト陣に向かうようになった。
◆『セイレーンの誘惑』あらすじ
母親を喪ったデヴォン(メーガン・フェイヒー)は、認知症が悪化の一途をたどっている父親の世話に疲れ、妹シモーヌ(ミリー・オールコック)に連絡を取る。しかし返事が来ず、デヴォンはシモーヌが社交界の著名人・ミカエラ(ジュリアン・ムーア)のアシスタントとして働く“富裕層が集まる島”へと向かう。
シモーヌは金髪に染めて鼻を整形し、裕福な恋人までおり、かつての姿とは一変していた。やがてデヴォンは、妹がカルトに洗脳されていると考え、彼女を救い出そうとする。その過程で、ミカエラの億万長者である夫ピーター(ケヴィン・ベーコン)の失踪した前妻など、数々の不穏な謎を掘り起こすことになる。
◆神話的要素も軽薄に?中途半端さが目立つ作品に
本作はタイトルのみならず、神話的な引用が随所に散りばめられている。一方で、視覚的な演出や音楽も、物語が進むにつれて幻想的なものから凡庸なものへと変わっていく。曖昧になる幻想と現実の境界を表現する意図もあるだろうが、監督たちがメッツラーの原作戯曲が持つ並外れた幻想性を追求しようとしなかったためでもある。
近年では、Apple TV+『チェンジリング 〜ニューヨークの寓話〜』など現実世界に幻想的、あるいは聖書的な要素が浸透していくという構成のドラマが増えている。しかし幻想に足を踏み入れながらも、統一された美学に対する覚悟を欠いたままでは、作品は中途半端なものとして映る。『セイレーンの誘惑』もまた、多くの点で中途半端に感じられる。
◆喜劇と悲劇のアンバランス感
悲劇と風刺のバランスを適切に調整しなければ、本作のように視聴が苦痛になる。全5時間という比較的コンパクトな構成にもかかわらず、視聴後には「終わってよかった」という安堵と、「この内容は、休憩なしの90分の舞台劇としての方がよほど効果的だったのではないか」という感想が同時に浮かんだ。
メッツラーは前作『メイドの手帖』で、悲哀とユーモアを見事に融合させた。同作は階級社会を重苦しく描きながらも、時折挿入される風刺が効果的なガス抜きとなっていた。しかし『セイレーンの誘惑』では、空虚な風刺だけが積み上げられている。もし階級批評として本格的に取り組むつもりがあったなら、「上流階級」と「下層労働者」の両視点を丁寧に描く必要があったはずだ。
◆人気ドラマで実力を発揮!気鋭俳優2人の好演
本作が目指す雰囲気のバランスを最も体現しているのは、デヴォン役のフェイヒーだ。フェイヒーは、ドラマ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート・ホテル』シーズン2で富裕層ポルノの中核的存在としての実力を証明している。本作では常に巧妙で皮肉的な台詞回しを披露し、動機が曖昧な行動を繰り返すキャラクターに対して共感を引き出している。
また、妹シモーヌ役のオールコック(『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』)は、華やかさと影の薄さを自在に行き来することができる俳優であり、他人から借りた魅力のために自らのアイデンティティを犠牲にした若い女性像を見事に体現。視聴後もシモーヌの「本当の人格」は謎のままであるが、それが意図的に省かれていることは理解できる。
◆現代の富裕層に対する鋭い風刺
『セイレーンの誘惑』は、21世紀アメリカの富裕層の特権意識を古代ギリシャ神話の神々と巧みに重ね合わせる。現代の富裕層たちは自らを称えるためのガラを開き、凡人たちを翻弄する。本作は、こうした富裕層の閉鎖性と傲慢さを批判する。
また、私たちが億万長者たちを崇拝する風潮は、ベーコンが演じる大富豪に反映されている。彼は時にマリファナを吸い、食事を共にするよう使用人を招いたりするが、その余裕ぶった冷たさを一切手放すことはない。
現代的な寓話性をより徹底的に追求した作品を望むならば、早急に打ち切られたNetflixシリーズ『KAOS/カオス』を視聴する手もある。こちらは不完全ではあるが、興味深い作品となっている。一方で、少なくとも『セイレーンの誘惑』には完結しているという長所がある。
<『セイレーンの誘惑』作品情報>
・配信日:5月22日(Netflix)
・キャスト:メーガン・フェイヒー、ジュリアン・ムーア、ミリー・オールコック、ケヴィン・ベーコンほか
・製作:モリー・スミス・メッツラー
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌
【関連記事】
- Netflix『新幹線大爆破』樋口真嗣監督が語る、大ヒットリメイク版の裏側…JR職員からアドバイスも
- 【Netflixランキング】日本の映画1位は『新幹線大爆破』!配信3週目も勢い止まらず
- 6月6日公開!実写版『リロ&スティッチ』をもっと楽しむアイテム12選
- 【配信・ブルーレイ】実写版『白雪姫』を自宅で鑑賞する方法
- 『ウィキッド』DVD・ブルーレイ:特典付き限定セット予約開始!