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『You Can See Everything』米レビュー|エリザベス・ホームズは何を語る?「真実」の境界を揺さぶる異色作

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『You Can See Everything』米レビュー|エリザベス・ホームズは何を語る?「真実」の境界を揺さぶる異色作
『You Can See Everything』より 写真:A24
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テラノス創業者エリザベス・ホームズを追った新作ドキュメンタリー『ユー・キャン・シー・エブリシング(原題:You Can See Everything)』が、テラライド映画祭でサプライズ上映され、米レビューが到着した。刑務所への収監を目前に控えたホームズと家族の姿から始まり、その後の時間へと物語を進める本作は、「真実」とは何かを巧みに問いかける異色作だ。

エリザベス・ホームズの素顔に迫る『You Can See Everything』

『You Can See Everything』は、かつて億万長者として注目を集めながら、詐欺罪で有罪判決を受けたエリザベス・ホームズの姿を追うドキュメンタリーだ。

ホームズは、自分は一度も嘘をついたことがないと主張する。医療系スタートアップ、テラノスをめぐる問題についてだけではない。何についても嘘をついておらず、周囲に誤解されてきただけだという。自分の考え方が人とは大きく異なるために理解されなかったのか、あるいは自身を利用しようとする第三者によって事実を歪められたのだと説明する。

そんなホームズが、自らの「本当の物語」を語り直そうとするのが本作だ。

監督を務めるのは、『リハーサル -ネイサンのやりすぎ予行演習-l』などで知られるネイサン・フィールダーとランス・オッペンハイム。ホームズの主張をそのまま受け入れるわけでも、従来のドキュメンタリーのように距離を置いて彼女を観察するわけでもない。むしろ、彼女の言葉や行動を間近で捉えながら、「人の真実をどこまで正確に映し出せるのか」という、より複雑な問いへと踏み込んでいく。

刑務所収監前のホームズと家族を密着取材

約3時間に及ぶ本作は、大きく2つのパートに分かれている。

前半では、ホームズがテキサス州の連邦刑務所で11年の刑に服するため出頭するまでの数週間を描く。舞台となるのは、パートナーのビリー・エバンスと2人の幼い子どもたちと過ごす、南カリフォルニアの海辺にある借家だ。

カメラはホームズの日常にかなり近い距離まで入り込む。家族との会話や感情的なやり取りだけでなく、日常の何気ない場面まで捉えていく。卵料理の作り方をめぐる、ホームズとエバンスの異なるアプローチさえも、2人の関係性を垣間見せる場面として映し出される。

フィールダー自身もカメラの前に姿を見せ、時には家族の家のゲストルームに滞在する。エバンスがマットレスを使わず、ベッドフレームの上で寝ることを好むという奇妙な生活習慣まで描かれるなど、作品は従来の「客観的な記録」というスタイルから意図的に距離を置いている。

フィールダーは、視聴者が疑問に思っていても直接聞くことをためらいそうな質問も投げかける。なかでも、ホームズの転落が公になった直後から、なぜ彼女の人生に関わることを選んだのかというエバンスへの問いは、2人の関係を考えるうえで印象的だ。

「客観性」を捨てて見えてくるホームズの心理

本作が興味深いのは、ホームズを擁護することでも、一方的に糾弾することでもない。

むしろフィールダーとオッペンハイムは、ホームズがなぜそのような主張を続けるのか、その思考回路を理解しようとする。その一方で、彼女が語るほど無実だとは、製作者たちも考えていないことが伝わってくる。

ホームズ自身は、自分の考えを懸命に説明しているのかもしれない。しかし、その説明には時として、極端に複雑な理屈が必要になる。家族と過ごす時間を追うことで、本作は報道記事やインタビュー、パパラッチ写真だけでは見えてこなかった彼女の心理を浮かび上がらせていく。

もし刑務所に入る直前のホームズだけを描いた作品だったとしても、それだけで十分に興味深いドキュメンタリーになっていただろう。

しかし、本作が大きく動き出すのは後半だ。

収監後、ホームズの物語は本人の手を離れていく

物語は2年後へと飛ぶ。

刑務所に収監されたホームズは、もはや長時間にわたって自分自身の言葉で語ることができない。すると、彼女をめぐる物語の主導権は再び本人の手から離れ、周囲の人々や別のメディアによって形作られていく。

その中心にいるのがエバンスだ。彼はホームズに代わって彼女の考えや感情について語り、認証済みのXアカウントから本人になり代わる形で投稿まで行う。

一方、本作はエバンスの人物像にもかなり批判的な視線を向ける。ホームズの意見として語っている内容が、過去に本人が公の場で示した考えと食い違うことにも触れながら、「果たして誰がホームズの声を代弁できるのか」という問題を浮かび上がらせる。

さらに、ホームズを描いたHuluのドラマ『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女~』も、彼女のイメージを形作った存在として登場する。同作はホームズが収監される前に公開されたが、現在も世間の彼女に対する認識に影響を与えている。そのことを象徴するように、ある理髪師がエバンスに髪を切りながらドラマの内容を説明する場面も描かれる。

「真実」を追うドキュメンタリー自身もまた物語を作る

そして本作が最も巧妙なのは、ホームズの物語を形作る存在のひとつとして、自分自身も含めてしまうことだ。

ホームズが自らについて説明しようとしても、観客が知る彼女の姿は、フィールダーが投げかける質問や、彼らが感じ取った彼女の誠実さ、そして撮影した場面のうち何を残し、何を編集で取り除いたのかという選択を通して構築されている。

つまり、『You Can See Everything』そのものもまた、ホームズについての「物語」を作り出している。

ホームズが不在となった後半では、再現映像も増えていく。刑務所の面会室を再現したセットを使った場面など、現実を記録するはずのドキュメンタリーに人工的な要素が加わっていく。その構造は、『The Rehearsal』などで現実と演出の境界を揺さぶってきたフィールダーらしいものでもある。

さらに、フィールダー自身を問いただす新たな人物も登場する。かつて彼がホームズに向けたのと同じような質問を投げかけられることで、フィールダー自身もまた、都合の悪い部分を曖昧にしたり、質問をかわしたりする存在になり得ることが示される。

ある場面では、エバンスがホームズのアカウントから投稿した粗野なコメントについて、フィールダーたちが「彼女らしくない」と憤る。しかし、彼らがホームズの本心を判断できる根拠は、ホームズ本人ではないという点で、他の誰とも変わらない。

『You Can See Everything』は、話題の人物をできるだけ正確に描こうとする。だが、その試みを通して最終的に浮かび上がるのは、「正確に描く」とは、そもそもどういうことなのかという問いだ。

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