是枝裕和、カンヌに刻まれた「25年前の賛否」パルムドールへの道はここから始まった
第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に、是枝裕和監督の最新作『箱の中の羊』が選出された。息子を亡くした夫婦がヒューマノイドを家族として迎えるSF作品である本作は、是枝監督にとって同部門8度目の選出となる。2年前には審査員も務めるなど、今やカンヌの「顔」とも言える存在だが、その歩みは決して平坦なものではなかった。25年前、是枝監督が初めてクロワゼットの地に降り立った時の記憶を紐解く。
▼『万引き家族』へと続く道――カンヌが愛する名匠・是枝裕和の現在地

是枝裕和監督とカンヌの親和性は極めて高い。2018年には『万引き家族』で最高賞パルムドールを受賞し、米アカデミー賞の国際長編映画賞(当時:外国語映画賞)ノミネートへとつなげた実績を持つ。
しかし、2001年に『DISTANCE』で初めてコンペティション部門に招かれた際、その評価は真っ二つに分かれていた。当時の状況を考えれば、その後の是枝監督がこれほどの成功を収めると予見できた者は少なかったかもしれない。
▼2001年『DISTANCE』を出品、期待と困惑が交錯したコンペ初挑戦

前作『ワンダフルライフ』が世界的なヒットを記録し、「形而上学的なアート映画を独力で復活させた」とまで称賛された是枝監督への期待値は、2001年当時、最高潮に達していた。
米『Filmmaker Magazine』誌のノア・コーワンは、当時の熱狂をこう振り返っている。「私は『DISTANCE』の大ファンでしたが、前作の成功もあり、期待が高まりすぎていました。この非常に繊細で壊れやすい作品を、コンペティションという過酷な戦場に置くべきではなかったのかもしれません」
▼賛否両論の嵐――あまりに静謐で実験的なアプローチ

『DISTANCE』は、カルト教団による無差別殺人事件から3年後を舞台に、加害者の家族たちが事件現場を再訪する姿を描いた。
米『Filmmaker Magazine』誌のノア・コーワンは同作を「あまりに曖昧で未解決な部分が多く、観客に多大な忍耐を強いる作品」と評しながらも、日本社会の生々しい傷跡を冷徹に、かつ勇気を持って描いた点には敬意を表した。一方で、当時の噂として「土壇場でコンペ部門に引き上げられたのは、あまりに無謀な判断だった」とも綴っている。
また、米『ハリウッド・リポーター』の批評家は、手持ちカメラの多用や即興的な対話を引用し、「まるで『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』から恐怖演出を取り除いたかのようだ」と、その実験的な手法に否定的な姿勢を示した。
▼逆風を糧に広げた「映画」への視野

世界からの洗礼とも言える厳しい評価を受けた是枝監督だが、この経験が監督をさらなる高みへと押し上げた。是枝監督は後に、カンヌでの初挑戦を次のように振り返っている。「『DISTANCE』を制作した経験によって、映画がいかにして作られ得るかという、より広い視野を持つことができました」
あれから25年。かつて「時期尚早」と囁かれた監督は、今や世界がその新作を最も渇望する名匠の一人として、再びカンヌの舞台に立つ。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。編集/和田 萌

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