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【カンヌ2026】『ナギダイアリー』米レビュー|深田晃司監督作品、静けさで射抜く傑作の全貌

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松たか子×石橋静河が魅せた7分間の喝采——深田晃司『ナギダイアリー』カンヌを揺るがす
映画『ナギダイアリー』より 写真:CANNES FILM FESTIVAL
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深田晃司監督の最新作『ナギダイアリー』が第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され、エンドロールと同時にスタンディングオベーションが沸き起こった。その拍手は約7分間に及び、会場を埋め尽くした観客が作品への賛辞を惜しまなかった。岡山県・奈義町という実在の農村に向き合ったカンヌ・コンペ最新作の全貌を、米『ハリウッド・リポーター』のレビューをもとに紹介する。

深田晃司監督といえば、2016年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』で世界的な注目を集めた日本映画界を代表する作家だ。本作はその深田監督にとって初のコンペティション部門選出という快挙であり、主演の松たか子、共演の石橋静河にとっても初のカンヌ参加となる記念碑的な一作となった。

『ナギダイアリー』カンヌ出品作レビュー|7分間の喝采が証明した、深田晃司の静かな革命

『ナギダイアリー』カンヌ徹底レビュー——深田晃司が農村に刻んだ、静けさという武器
(左から)松たか子、深田晃司監督、石橋静河=5月13日、第79回カンヌ国際映画祭にて ©Kazuko Wakayama

『ナギダイアリー(英題:Nagi Notes)』は、現代日本の農村を舞台に、芸術・友情・コミュニティの温もりを丁寧に紡ぎ出した秀作だ。松たか子と石橋静河が共演し、ふたりの女性が彫刻家とモデルという関係を通じて新たな絆を結んでいく過程が描かれる。

物語の主軸となるのは、彫刻家の寄子(演:松たか子)と、東京と台湾で活躍する建築家の友梨(演:石橋静河)だ。友梨はかつて寄子の弟と結婚しており、離婚後に奈義を再訪する。ふたりは過去の家族関係という枠を超え、今度は芸術的・知的に対等な存在として向き合うことになる。

農村が育む芸術と女性の連帯——『ナギダイアリー』が映し出す日本の原風景

舞台となる奈義町は岡山県北部に位置する人口約5,000人の静かな山あいの町だ。自衛隊の演習による騒音という不便さと引き換えに政府から補助を受け、建設された現代美術館「奈義町現代美術館(Nagi MOCA)」のある地でもある。東京から奈義まで向かうのは国外旅行より時間がかかると劇中の登場人物が語るほど、都市から隔絶された場所に位置する。

寄子は長男優先の家督制のしきたりのなか、本来は弟が継ぐべき実家の農場を守りながら、納屋を改装したアトリエで創作を続けている。木彫りの肖像彫刻を手がける寄子の制作プロセスの丁寧な描写は、本作の最大の見どころのひとつだ。地元の林業従事者から贈られた木材を素材に、モデルとなる人物をじっくり観察してスケッチを重ね、粘土で試作品をつくってからノミを握る。寄子はその創作を「自分、モデル、素材の三者による共同作業」と位置付けており、この哲学が映画全体のトーンを規定している。なお、劇中で完成する彫刻作品は、彫刻家・吉田愛美によるものだ。

LGBTQのテーマを自然体で描く稀有な日本映画

松たか子と石橋静河、ふたりの化学反応が起こした奇跡——『ナギダイアリー』カンヌ・レビュー
映画『ナギダイアリー』より © 2026 ナギダイアリー・パートナーズ / Survivance / Momo Film Co.

本作で特筆すべきは、日本映画では依然として珍しい、LGBTQアイデンティティへの誠実な眼差しだ。寄子はかつて深く愛した幼なじみのサナエ(演:藤間爽子)の死をいまも引きずっている。また、地元に暮らす十代の少年・春樹(演:川口和空)と圭太(演:藤原聖)の間に芽生えかけた感情も、サブプロットとして繊細に描かれる。地方ではいまだほとんど語られることのない感情を、深田監督は静かに、しかし確かにすくい取る。

春樹と圭太の関係を見て、友梨が寄子とのあいだに似た何かを感じ取る場面は象徴的だ。深田監督はこうした細部を押しつけがましくならずに物語に織り込み、テーマ先行に陥ることなくキャラクターを前景に置き続ける。

本作は、名匠ジャック・リヴェットの芸術家映画『美しき諍い女(原題:La Belle Noiseuse)』(1991年)の精神を現代の日本農村に呼び起こしながら、より温かく、希望に満ちた着地点へと向かう。

深田晃司監督の哲学が光る演出——川を下るような映像体験

深田晃司『ナギダイアリー』カンヌを沸かせた傑作の正体を徹底解説
深田晃司監督 写真:THR

寄子の「三者による共同作業」という芸術観は、そのまま深田晃司監督自身の映画制作哲学に重なる。脚本を書き、プロットを組み立てるのは監督自身だが、映画に魂を吹き込むのは俳優たちとスタッフの協働作業だ——本作はその事実を静かに、しかし確かに体現している。

編集はシームレスで、映像は洗練されており、全体として川を下るカヌーに乗っているかのような心地よい流れを持つ。観客はその流れに身を任せ、スクリーンに映し出される日々の生活の断片——牛の乳しぼり、木を削る音、スケッチブックを埋める鉛筆の線——を静かに享受できる。

静けさの奥に宿る確かな感動。それがカンヌの観客から7分間の喝采を引き出した理由だろう。アートハウス系映画の愛好家のみならず、松たか子と石橋静河の演技に引き寄せられる幅広い観客にとって、この秋の必見作になることは間違いない。

松たか子と石橋静河、ふたりの化学反応がこの映画の核心にある。カンヌ最高賞(パルムドール)の行方とともに、日本公開まで目が離せない。

作品情報:『ナギダイアリー』2026年9月25日公開——カンヌが認めた日本映画の新章

監督・脚本:深田晃司
出演:松たか子、石橋静河、松山ケンイチ、川口和空、藤原聖、藤間爽子、水間ロン、申瑞季
上映時間:110分
公開日:2026年9月25日(金)公開劇場:新宿ピカデリー、ユーロスペースほか全国

特報_映画『ナギダイアリー』9.25公開

※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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