アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ博士に独占インタビュー: マケドニア前駐日大使、起業家、映画監督など多才なキャリア「視野を広げると、学びが増えていく」

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史上初のマケドニア共和国(現・北マケドニア)駐日大使を務めたアンドリヤナ・ツヴェトコビッチ博士が、ハリウッド・リポーター・ジャパンのインタビューに登場。起業家・映画監督(『紫と金』『波の時間』)としての顔も持つツヴェトコビッチ博士にキャリア、映画に関するステレオタイプへの考えなどについて伺った。

収録: 2022年

ー日本大学で映画研究の博士号を取得されています。日本に来た理由を教えて下さい。

5歳で『羅生門』を観て以来、日本の映画に魅了されてきました。当時の光景は鮮明に覚えています。テレビの前に座り釘付けになって、2時間ずっとそのまま。17歳になる頃には、映画制作の道を歩むことを決心していました。それからブルガリアで修士号(デジタルシネマ)を取得後、日本政府の奨学金を得て来日しました。そして日本大学の大学院で、博士号の勉強をしました。同大学の映画学科は、国内、おそらくアジア圏でも最も優れた学科の1つでしょう。

ー初のマケドニア駐日大使、MBAを有する起業家、映画制作者として活動されてきました。その活力をインスパイアするものは何ですか?

これが私のインスピレーションだと指せるものはありませんが、つねに自分を未完成の作品だと思うようにしています。また、世界に対して素晴らしい好奇心を抱いています。16歳くらいで映画制作者を志し、それは現在でも変わっていません。私は物語の語り手、映画制作者になりたいのです。時に、人生では様々なチャンスがめぐってきます。母国の史上初の大使になったり、日本の有名企業で役員のオファーをもらったり。責任を担うとなると、しっかりと準備しておきたかったので、MBAを取得しました。私は他の人よりもエネルギーがあって、人生でやりたいことに全力を尽くしていると思います。また同時に、視野を広げるほど学びも増えていくと信じています。そして、より優れた映画制作者になることができるのです。

ーこれまでどんな映画を作りましたか?スタイルやテーマは何ですか?

これまで約30分の短編映画を制作しました。私の映画のほとんどは、概念的なものです。その時々で興味を引くトピックを取り上げ、実験してみるような感じです。2009年に『波の時間』という映画を作り、“人間の内側に存在する時間”というトピックを探求しました。同作は、“我々はみんな歩く砂時計だ”という比喩で幕を開けます。1歩進むごとに、砂が1つずつ零れ落ちていきます。もう1作は、松竹主催のコンペティションで受賞した『紫と金』(2010)という短編です。紫は上流階級や、より崇高な精神への意欲を象徴します。金にはダブルミーニングがあり、色とお金を意味しますが、それは私たちの魂を堕落させることがあります。なので、これらの対比になっているのです。

アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ
アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ at the TIFF 2021- Credit: TIFF
ー将来、作品を制作する予定はありますか?

2つの脚本を執筆中で、夫と一緒に小説も書きました。数年前、旅行中の夫が自分が見た夢についてメールで教えてくれました。私が彼の夢の続きを考えて送ると、夫から次の章が返ってきたんです。結果的に、今や150ページの本になりました。出版も計画していて、映画化できるかもしれませんね。本当に面白い物語なんです。

ー日本映画のステレオタイプについて研究されていました。ステレオタイプが社会に与える影響とは?

確かに、ステレオタイプやあらゆる偏見は社会にとって有害です。しかし、私たちの脳にはある一定の反応を即座に引き出す機能が備わっています。ステレオタイプには、ポジティブなものとネガティブなものがあります。普通、私たちは自分の国についてポジティブなステレオタイプを築こうとします。人間なら当たり前です。大切なのは、“いかにして自分の固定観念を認識するか”ということです。映画に関しては、日本のステレオタイプと東南アジアのステレオタイプを研究しました。ステレオタイプは、外交や国際関係で非常に重要だと考えていたのです。リサーチをしているとき、日本では韓国ドラマが人気を博していました。それから、どの日本映画が韓国や中国といった国々で人気なのか、その理由や日本に対するイメージがどのように形成されるか、といったことを探究し始めました。そこで私は、“どのような文化作品を世界に宣伝するか”ということが非常に大切であると気付きました。日本が外交の場での文化や映画の重要性を認識し、日本社会のイメージのために、どのように描写していくか努力して欲しいですね。

ーお気に入りの日本映画は?

『雨月物語』です。好きな作品は沢山あるのですが、いつも『雨月物語』を挙げます。大使に任命されたとき、天皇陛下に信任状をお渡しする式典が行われました。そこで陛下と会話する時間があり、私に“お気に入りの日本映画は何ですか?”と尋ねられました。運良く答えを用意していたので、“溝口健二の『雨月物語』です”と言いました。とても神秘的な作品で、大好きです。映像が本当に美しくて、ストーリーも超自然的。ホラーではなく、ヒューマンドラマ寄りのゴースト・ストーリーのような感じですね。『雨月物語』みたいに空中を漂い、人々の心に大きなインパクトを残すような作品を作りたいです。

ー好きな映画のジャンルは?

ヒューマンドラマが大好きです。あとは、コメディーの大ファンでもあります。毎日観ていました。でも、良質なコメディーではなかったですね。映画業界や映画学では、コメディーは最も難しいジャンルだとされています。

アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ博士
マケドニア共和国(現・北マケドニア)前駐日大使(2014~18年)、起業家、映画監督、博士(PhD、日本大学)2005年、来日。日本大学で映画学を学び、博士号を取得。監督作『紫と金』、『波の時間』は日本の映画祭で受賞を果たした。映画監督・脚本家としての経験を生かし、ロボットの制作に携わるなど、AI分野にも造詣がある。2014年、日本初となるマケドニア共和国駐日大使に就任。18年に退任後も、家族と日本で暮らす。現在(収録当時)は、エコノミスト・インテリジェンス・コーポレート・ネットワークの北アジアディレクターをはじめ、著名企業の役員や、数々の大学でアドバイザーを務めるなど多彩に活躍している。

記事/和田 萌

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  • アンドリヤナ・ツヴェトコビッチ LinkedIn

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