藤竜也『愛のコリーダ』製作発表2日前の出演依頼に「ぼう然とした」
第6回大島渚賞を記念し1976年の『愛のコリーダ』が16日、東京・丸ビルホールで上映され、主演の藤竜也がトークショーに出席した。
料亭の主人と恋仲になった女中が愛憎のあまりに主人を絞殺し局部を切り取ったという、1935年の阿部定事件を題材にした作品。局部があらわになる過激な性描写が、芸術か猥褻(わいせつ)かで物議を醸した。カンヌ映画祭の監督週間の上映でも賛否が真っ二つに分かれたが、大島監督の名を世界に知らしめるエポックメーキングな1本となった。
藤が主人の吉蔵役をオファーされたのは、製作発表の2日前。「大島監督から台本を渡され、その場で読んでほしいと言われて読んだが、セックスシーンが多くぼう然とした」と回想。しかし、「それを重ねた向こうに男と女の情念が表現できる。人間は実際にそういうものだから、いいなあと思っちゃったんですね」と苦笑交じりに懐かしんだ。
その裏には、藤自身の後悔の念もあった。所属していた日活がロマンポルノにシフトしようとしていた時期。懇意にしていた監督から出演依頼があったが、既にテレビドラマで活躍していたこともあり、「ビビッてしまって、自分を守るために断ったんです。それが傷になっているんです」と告白。そのため、「これを断ると一生悔やむことになる」と『愛のコリーダ』への出演を決意した。
さらに、日活時代にも言及。「どうやって演技をしていいのかも分からず、足が地に着いていない不安ばかりだった。鈴木清順監督が俳優に人気があったので、自宅に一升瓶を持って行き『僕を使ってください』と言った」と直談判したという。だが、鈴木監督の答えは「使ってあげたいけれど、使いたいと思わせる何かがない」と辛らつなものだった。
しかし、その後俳優業にまい進した結果、鈴木監督から『ツィゴイネルワイゼン』(1980)の主要キャストでの出演依頼を受けた。「テレビが比較的うまくいっていて、主演シリーズが決まっていたので断ったんです。でも、何かがあると思ってくれたんだと。青年時代にもらった一番ありがたい言葉です」と感謝した。
ナビゲーターを務めた黒沢清監督は、「もしかしたら『ツィゴイネルワイゼン』の主役が原田芳雄さんではなく、藤さんになっていたかもしれないんですね」と感嘆の表情。自身は『アカルイミライ』(2023)で藤を起用しており、「60年代の日活を代表するスターであり続け、華と影の両方を備えた俳優です」と最敬礼だった。
取材/記事:The Hollywood Reporter 特派員 鈴木元
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