東京国際映画祭は日本映画の世界進出をどう支える? 久松猛朗フェスティバル・ディレクターが語る予算拡充と第40回への戦略
日本映画への国際的な関心が高まるなか、東京国際映画祭は世界に向けた発信力をどう強化していくのか。かつて同映画祭のフェスティバル・ディレクターを務め、5年ぶりに復帰した久松猛朗氏は、予算の拡充やスポンサーの獲得、映画業界の交流機会の創出など、今後の課題と展望を語った。2027年に迎える第40回開催も、映画祭の立ち位置を見直す重要な機会になるという。
【東京国際映画祭】久松猛朗フェスティバル・ディレクターが5年ぶりに復帰、日本映画を取り巻く追い風に期待
日本最大級の映画祭である東京国際映画祭のフェスティバル・ディレクターに再び就任した久松猛朗氏は、今回の復帰を予想していなかったと振り返る。
「驚きましたが、以前やり遂げられなかったことに取り組む良い機会であり、光栄なことだと思いました」と語る。
久松氏は松竹やワーナー・ブラザースなど、日本とハリウッドの映画会社で長年にわたり要職を歴任。2017年に東京国際映画祭のフェスティバル・ディレクターに就任し、2021年まで務めた。
久松氏の退任後は、2019年にチェアマンに就任した外交官出身の安藤裕康が映画祭の改革を主導した。会場を銀座・日比谷エリアへ移し、プログラミング部門の体制を刷新したほか、映画人によるトーク企画の拡充や「黒澤明賞」の復活などに取り組んだ。2026年4月、久松氏がフェスティバル・ディレクターに再任された。安藤は同年5月末にチェアマンを退任する予定と発表されていた。
業界関係者から、丁寧で実務能力の高い協働者として評価される久松氏は、退任から復帰に至る経緯について詳しく語らなかった。一方で、今回の復帰は日本映画にとって好機だと捉えている。
「今、日本映画には大きな追い風が吹いていると感じています。このタイミングで再び映画祭の仕事に携われるのは幸運です」
久松氏が例に挙げるのは、濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』のアカデミー賞国際長編映画賞受賞や、『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞視覚効果賞受賞といった国際的な成果だ。日本のアニメーション作品が世界的な人気を集めていることも、日本映画への関心を後押ししている。
さらに、2026年5月に開催されたカンヌ国際映画祭の映画見本市「マルシェ・デュ・フィルム」では、日本が「カントリー・オブ・オナー」に選ばれ、映画・コンテンツ産業を国際的に発信する機会となった。釜山国際映画祭でも同年、多数の日本映画が上映されている。
国内市場も好調だ。日本映画製作者連盟の発表によると、2025年の日本国内の映画興行収入は2,744億5,200万円となり、2019年の2,611億8,000万円を上回って、興行収入の集計を開始した2000年以降で過去最高を記録した。世界の配信事業者による日本発コンテンツへの投資も進んでおり、日本政府もコンテンツ産業を成長分野の1つと位置づけ、支援を強化しているという。
「日本映画や日本の映画人が世界から注目を集めているのは明らかです。映画祭としても、こうした流れを支えると同時に、その機会を生かしていくべきだと考えています」
東京国際映画祭の課題は予算拡充、日本映画の海外展開を支える場へ
久松氏が目指すのは、海外の映画を日本の観客に紹介するだけではない。国際的な注目が高まる日本映画にとって、東京国際映画祭を海外の映画祭関係者や業界人とつながるための足掛かりにしたい考えだ。
その一環として、2026年の第39回東京国際映画祭では、日本映画を紹介する部門「Nippon Cinema Now」に新たなコンペティション賞を設けた。また、日本映画の製作関係者と海外の映画祭プログラマーや映画業界関係者との交流を促す新企画「TIFF Work-in-Progress」も導入した。
ただし、こうした取り組みをさらに発展させるには、運営資金の拡充が欠かせないと久松氏は強調する。
「もっと予算が必要です」と率直に語り、その理由として円安とインフレの影響を挙げた。海外から映画監督や俳優らを招待し、滞在に必要な手配を行う費用が、円安やインフレによって増加しているという。
「私たちが目指しているのは映画祭の縮小ではなく、拡大です」
久松氏は、2027年の第40回開催に向けて、政府からの支援が増えることに期待を寄せている。ただし、支援の拡大を前提にするのではなく、スポンサーの獲得にも力を入れていく方針だ。
「そうなると決めつけるわけにはいきません。第40回が企業にとってブランドを発信する価値ある場になることを示し、より多くのスポンサーを獲得できるよう取り組んでいます」
東京国際映画祭に華やかさを、映画会社との交流・連携を強化
久松氏が強化したいと考えているのは、資金面だけではない。日本の映画会社との連携を深め、映画祭を作品の紹介やビジネス交流の場として活用してもらうことも重要な課題だ。
「映画祭をもっと華やかな雰囲気にする必要があります。そのためには、パーティーを増やさなければなりません」
久松氏は、カンヌ国際映画祭ではパーティーが映画祭の魅力を形作る重要な要素になっており、映画関係者が交流し、新たなビジネス関係を築く機会にもなっていると説明する。
釜山国際映画祭では、韓国の映画会社が自社主催のパーティーを開き、映画祭を活用しているという。久松氏は、東京でも同様の動きを広げたい考えだ。
2026年には、日本の大手映画会社・東宝が、海外からの招待客との交流や自社作品の紹介を目的とした招待制イベント「Toho Izakaya Night」を初開催した。久松氏はほかの大手映画会社にもイベント開催を呼びかけたものの、今年は実現に至らなかったと明かす。
「今年は準備が間に合いませんでしたが、第40回には、もっと大きな存在感を示してもらえることを期待しています」
映画祭を作品上映の場にとどめず、国内外の映画人が交流し、業界の新たなつながりを生み出す場へと発展させる。そのためにも、映画会社やスポンサーとの協力を広げていく考えだ。
第40回東京国際映画祭へ、釜山との競争を超えアジア映画の発信拠点を目指す
2027年に迎える第40回東京国際映画祭は、久松氏にとって、映画祭全体の方向性を改めて考える節目となる。
「現在の映画祭がどのような位置にいるのか、そして今後どこを目指すのかを評価する機会です」
東京国際映画祭は、近年存在感を高めてきた釜山国際映画祭と比較されることも多い。しかし、久松氏は両者を単純な競争相手として捉えるのではなく、アジア映画を世界に発信する主要な映画祭として、協力できる可能性にも目を向けている。
「釜山国際映画祭は長年にわたって非常に力をつけてきました。一方で、世界の映画興行収入の約40%をアジアが占めています。アジア映画を世界に紹介する2つの主要な映画祭として、私たちが協力できない理由はありません」
日本映画への国際的な関心が高まり、映画祭を取り巻く環境も変化するなか、東京国際映画祭は2027年の第40回開催に向けて、予算や運営体制の強化、業界との連携、そして世界への発信力向上を目指す。久松氏の5年ぶりの復帰は、東京国際映画祭が第40回開催を見据え、国際的な発信力と映画業界との連携を強化するうえで重要な節目となりそうだ。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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