浅野忠信『SHOGUN 将軍』世界中のファンに愛される “サムライ・ヤブシゲ” の役作りについて(THR独占)

©︎FX/Disney
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エミー賞最有力候補とされる、日本の戦国時代を舞台としたFXドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』は世界的大ヒットを記録。多くの魅力的なキャラクターが登場する本作だが、中でも浅野忠信演じる樫木薮重(かしぎ やぶしげ)は、その独特なユーモアや立ち回りで、世界中のファンを魅了している。今回、ザ・ハリウッド・リポーターは、本作に出演する日本の名俳優・浅野忠信にインタビューする機会に恵まれた。

浅野忠信は、FXドラマ『SHOGUN 将軍』で、物語の主要舞台である伊豆地方の領主・樫木薮重を演じ、高い評価を得ている。

浅野は、薮重の複雑で魅力的なキャラクターを生き生きと演じ、世界中の視聴者から大きな人気を集めた。

シリーズ序盤では、漂流した英国人の一人を釜で煮立てるなど、残虐で過激な行動をとる薮重。

しかし、その後、荒々しくも自身のカリスマ性を発揮し、観る者を楽しませる魅力的なキャラクターとなっている。

『SHOGUN 将軍』は1975年に出版されたジェムズ・クラヴェルの原作小説の2度目の映像化作品。

多額の予算と、長年の制作期間を経て完成した、ハリウッドきっての超大作だ。

狡猾で気弱ながらも、真っ直ぐで飾らない、印象的な役柄 “サムライ・ヤブシゲ” を演じた浅野は、エミー賞にて助演男優賞の候補者になると予想されている。

ザ・ハリウッド・リポーターは、今世界中で注目を集める浅野忠信にインタビューする機会に恵まれた。

日本とハリウッドで活躍する自身の長年のキャリアから、世界中から愛される“サムライ・ヤブシゲ”の役作りまで、THRに独占で話してくれた。

——– THRインタビュアー:私は今、伊豆半島からテレビ電話を繋いでいます。偶然、藪重の領地にいます。厳密に言えば、浅野さんは私の主君ということになりますね。

浅野忠信:「本当ですか?本当なら、その通りですね。私があなたの主君だ!」

——— FXによる最近のプロモーション資料では、薮重について「カリスマ性とユーモアを兼ね備えた、一緒に酒を飲みたくなるような恐ろしい領主」と表現されています。これは、浅野さんの生き生きとした演技の楽しさをよく捉えていますね。

そこで質問なのですが、薮重のことをよく知っている浅野さんとしては、実際に薮重と一緒に酒を飲んでみたいと思いますか? 私なら飲みたいと思います。彼に生きたまま煮立てられるにされるリスクがありそうですが

「私は飲まないと思います…薮重のことを研究し、よく知っているので。彼は、相手が酔っ払っている間に水を啜って酒を飲むふりをするタイプの人間です。それで自分が優位に立とうとするんです。私なら、彼からの酒の誘いは断りますね」

——– 薮重のキャラクターについて、他にどんな印象を持っていますか?

「彼と同じ立場にいる他の人たちは、自分より上の権力者に対して、多くのことに疑問を持ったり、異を唱えたりはしないでしょう」

「しかし、藪重は違います。彼はその権力やプレッシャーを理解していますが、それでも敢えて質問をし、自ら行動を起こします」

「彼は常に、『もし自分がこれをしたら、何が起こるだろう?』と考えているんです」

「策略家ではありますが、ある意味で、非常に正直な人間だと言えるかもしれません」

「そして薮重は、いつも何か面白いことをしでかしています」

『SHOGUN』で浅野忠信が演じる樫木薮重 ©︎FX/Disney

——–『SHOGUN 将軍』の撮影に向けた準備はどのようにされたのでしょうか。ジェームズ・クラベルの原作は読まれましたか?

「原作は読みませんでしたが、脚本にはかなり時間をかけました。今回の脚本は原作にかなり忠実だと聞いています」

「私が以前一緒に仕事をした監督から教わった準備方法が、脚本を何度も何度も読むというものでした」

「ただ繰り返し読むだけではなく、毎回視点を変えて、他のキャラクターの立場になって物語を想像します。実際に演じるキャラクター以外の役を演じるつもりで読むのです」

「これによって、物語全体をより立体的に理解することができます。藪重のような重層的で複雑なキャラクターを演じるのに、このプロセスは特に役立ちました」

——– 役作りにあたって、特に大切に取り組んだ点はありますか?

「脚本を読み返している時、最初は物語全体を把握することができませんでした。シリーズはほぼ時系列に沿って撮影され、脚本はそのブロックごとに渡されました」

「例えば、第1話を読んでいた時、藪重が崖の上にいて、ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス)に試されていると感じるシーンがありました」

「ブラックソーンに対する体裁を気にした藪重は、危険な下山を家臣にやらせるのではなく、自分でやるべきだと決断します」

「そのシーンから、藪重のキャラクターの一面を垣間見ることができ、その側面を発展させていきました。ここでは、憶測上の他人からの評価で自分の価値を測るという一面がわかりました」

「脚本を与えられるたびに、彼の別の一面が見えてきて、それを段々と積み重ねてキャラクターの全体像を作り上げていったのです」

「常に、薮重を演じる上で、より面白い方法を探していました」

——– 藪重はこの作品の中である意味最も現代的で、共感できるキャラクターだと感じました。西洋から見ても、現代の日本人から見てもです。他の登場人物が主君や神への忠誠・義務に縛られているのに対し、彼は常に自分の利益と忠誠心のバランスを取っていますよね。ブラックソーンでさえ、彼の行動の動機を教会や国との関係で表現していることが多々ありました。

しかし同時に、浅野さんの見事な演技のおかげで、藪重は完全に当時の人間らしいようにも感じられます。戦国時代を舞台にした物語の中で、とても生き生きとしていました。

「ありがとうございます!でも、全て脚本に書かれていることに忠実に演じただけなんです」

「すべてが脚本の中に詰まっていたので、脚本に忠実であろうとし、何も手を加えませんでした」

「しかし、自分の個性をキャラクターに投影しようとしましたし、先ほど仰られたように、視聴者に彼を親しみやすくする方法をよく考えました」

「脚本に忠実でありながら、自分自身を投影したことが上手く混ざり合ったのかもしれません」

asano tadanobu in shogun
©︎ FX/Disney

——- 日本の時代劇では、演技をどのように工夫されていますか?時代物の映画やドラマは、日本では非常に確立されたジャンルで、何十年にもわたって発展してきた風習や歴史があります。戦国時代の役を演じる時、当時の人々がどのように生きていたかという自分なりのイメージに導かれるのでしょうか?それとも他の時代劇作品からインスピレーションを得るのでしょうか。

「このような時代劇を制作する上で最も興味深いのは、今日生きている人は誰一人として、当時の人々が実際にどのように生きていたかを目撃していないということです」

「つまり、私たち全員、当時の人々が実際にどのように話し、行動していたのか、まったく知らないのです」

「私たちが頼りにできるのは、歴史的芸術作品だけなのです。私はその時代の人々がどのように感じ、生きていたかを想像するようにしています」

「もちろん、私は時代劇の映画をたくさん見てきましたが、それを真似しようとする観点からではありません」

「気に入った演技やキャラクターを見た時は、そこから学べることが少しあるかもしれません。でも、ほとんどの場合その俳優も、おそらく、私がいつも試みていることと同じ様なことをしようとしていたのだと思います」

「つまり、自分自身をキャラクターに投影し、その状況下で人々がどのように生きていたかを想像する、ということです」

——– ご自身は長い間、日本では大スターでしたし、有名なハリウッド映画にも出演しています。『SHOGUN 将軍』で、さらに新たな世界的人気と知名度を集めているように感じます。シリーズがヒットし、薮重だけでなくご自身もファンの人気者となっていますが、海外で成功を収めていることに対し、どのように感じますか?

「世界中の人々が私の演技を認めてくれていること、そしてこのような瞬間を経験できていることを非常に嬉しく思っています」

「でも、先日亡くなった親友のケヴィン・チューレン(プロデューサー)がこの場にいないことが、本当に悲しいです」

「これはご質問とは直接関係ないのですが、私がこのような素晴らしい機会に恵まれたのはケヴィンのおかげであり、私はいつも彼の期待に応えたいと思っていました」

「だから、彼が『SHOGUN 将軍』での私の演技を見る機会がなかったのは、とても残念です………. 感情的になってしまいました。すみません」

——– ご友人を亡くされたこと、お悔やみ申し上げます。彼と知り合ったきっかけは?

「少し前になりますが、『モンゴル』(2007年)という映画で私はチンギス・ハンを演じました」

「これはロシアの作品で、アカデミー賞の外国映画部門にノミネートされたんです。その結果、アメリカでも少し上映されることになり、たまたま、ケヴィンは彼の父親と一緒に観に行ったそうです」

「それから間もなくして彼が来日し、友人の友人を通じて、一緒に食事をする機会がありました」

「その時、ケヴィンはすでにプロデューサーでした。彼は、『もっと国際的なプロダクションに参加することに興味があるなら、できる限りのサポートをする』と言ってくれたんです」

「その時、英語の勉強を始めようと決心しました。その後、アメリカに行き、彼の家に3週間以上滞在しました」

「その後、彼がCAAを紹介してくれて、その関係から映画『ソー』やスコセッシ監督の『沈黙-サイレンス』といった作品に携わることができました」

「ケヴィンが特定のプロジェクトを紹介してくれたというわけではありませんが、彼はその期間中ずっと私の面倒を見てくれていたんです」

「彼の励ましと助けによって、私はグローバルな業界への大きな一歩を踏み出すことができたのです。彼の話をさせてくれて、ありがとうございます」

——– もちろんです。FXはあなたをエミー賞・リミテッドシリーズ部門の助演男優賞に推薦しているそうですね。これはあなたにとっても新しいステップに違いありません。

「正直なところ、何をすればいいのかよくわかりません」

「でも、世界中の人々が私の演じるキャラクターを受け入れてくれているのはとても嬉しいです」

「それと同時に、まだそれほど現実味がありません」

「このシリーズの勢いが増しているのを感じますし、チーム全体が成功を喜んでいます」

asano nobutada in shogun
©︎ FX/Disney

——– ご自身はこれまで、実に多彩なキャラクターを演じてきました。アーティスティックなプロジェクトから、マーベルの大作アクション映画まで、全てをこなしていらっしゃいますが、今新たに挑戦したいことはありますか?

「今一番興味があるのは、台詞の少ない役を演じることです」

「何も言わなくてもどれだけ伝えられるかを探ってみたいんです。“シネマ”(映画製作法)という言語だけで、力強い感情やメッセージさえも伝えることができます。だから、実際に台詞を口にせずに、どれだけ伝えられるか、これが私が今俳優として一番挑戦してみたいことです」

『SHOGUN 将軍』の最新話は毎週火曜日にディズニープラスで配信される。

取材・記事:The Hollywood Reporterアジア支局長 パトリック・ブジェスキ / Patrick Brzeski

編集・翻訳:The Hollywood Reporter Japan 山口 京香 / Kai Yamaguchi

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