「完成されたヒーロー」ではなく、「覚醒するヒーロー」へ──新作映 画『マスターズ・オブ・ユニバース』が描く新時代のヒーマン論【コラム】
6月5日(金)にいよいよ日米同時公開される、映画『マスターズ・オブ・ユニバース』。すばらしいアクションとユーモア満載の大冒険活劇です。科学と魔法が混在する惑星エターニアを舞台にヒーマンという英雄が活躍します。

【動画】最強の戦士<ヒーマン>覚醒── 故郷のため宿敵スケルターとの死闘が幕を開ける! 映画『マスターズ・オブ・ユニバース』<予告>6月5日(金)全国の映画館で公開
もともとはアクション・フィギュアから始まった!

実はこのヒーマン、そして“マスターズ・オブ・ユニバース”は40年以上にもわたって愛されてきた人気ヒーロー物なのです。アメコミ物?たしかにそういう面はありますが、トランスフォーマー、G.I.ジョー、そしてバービー同様、おもちゃが原作の映画なのです。
もともと、マスターズ・オブ・ユニバース(以下、MOTU)は、1982年に発売されたアクション・フィギュア(人形)でした。発売元はマテル社。そうバービー人形で有名なマテルです。マテルはバービーで女子向け玩具市場を席巻していましたが、男子向け玩具市場でも大ヒットをとばしたいと考えます。
ちょうどその時、ライバル会社であるケナー社(後にハズブロ社に買収)が『スター・ウォーズ』のアクション・フィギュアを大ヒットさせていました。マテルはこれに対抗すべくSFドラマ『宇宙空母ギャラクティカ』(『スター・ウォーズ』の影響を受けて製作された宇宙物)、映画『タイタンの戦い』(ギリシア神話をベースとしたファンタジー)、アニメ版『フラッシュ・ゴードン』(スター・ウォーズに影響を与えたとされるクラシックなSF冒険物)等のアクション・フィギュアを展開します。
しかし、こうした版権物より自社オリジナルのヒーロー物で勝負したいと考えるようになりました。マテルは主なターゲットとして5歳ぐらいの男児を設定。徹底的にリサーチしたところ、この世代の子どもたちは“強さ・獰猛さ・超人的なパワー”に憧れることがわかりました。そこでこうした願望を投影しやすいヒロイック・ファンタジー、いわゆる剣と魔法の世界を舞台にしたおもちゃシリーズの開発に着手します。そうしてMOTUが生まれたのです。
当初はTorakという、有史以前を舞台にした戦士物も候補の一つだったようです。これがMOTUにブラッシュアップされるわけです。おそらくおもちゃを売るという視点に立つと、やはり乗り物(メカ、ビークル)とかもラインナップに入れたくなる。そう考えるとSF的な要素も必要と考えたのではないでしょうか?
コミック、アニメとの相乗効果で人気“変身”ヒーローに
しかし、このシリーズはベースとなる原作が存在しません。そこでマテルはこのおもちゃに、キャラクターたちのバックグラウンドを語るコミック・ブックをおまけにつけました。最初はマテル独自製作のコミック・ブックでしたが、途中からDCコミックスが製作にかかわります。
DCコミックスはスーパーマン、バットマンを手掛けるヒーロー・コミックの老舗です。さらにマテルは、より子どもたちが夢中になれるようにTVアニメ・シリーズをスタートさせます。それが1983年から放送開始となった『ヒーマンとマスターズ・オブ・ユニバース(He-Man and the Masters of the Universe)』です。このアニメを手掛けたのはフィルメーションというスタジオ。ここはスーパーマンやバットマンのヒーローアニメも手掛けていたのでヒーロー物は得意だったのでしょう。今回、映画『マスターズ・オブ・ユニバース』を絶賛する米メディアの論評の中に「土曜の朝の楽しさを思い出せてくれる」というのがありますが、当時こういうアニメは土曜日の朝の定番子ども向けプログラムであり、ヒーマンもその中の一つだったわけです。
というわけでMOTUの戦略であるフィギュア×コミック×TVアニメはいまでいうメディア・ミックスの先駆けでした。このパターンは他社にも刺激を与えます。ほぼ同時期にG.I.ジョーが、そして1984年にはトランスフォーマーがやはり、おもちゃ×コミック×アニメという展開を仕掛けてきます。(この両ブランドは共にハズブロ社のコンテンツ)。
MOTUにとってこのコミックとアニメの展開は単にブランドの知名度をあげただけではなく、キャラクター設定が深堀されより魅力的な物語へと進化させることにも成功しました。その最たるものが「魔法の剣によって、ちょっとのんびり屋さんのアダム王子がマッチョな戦士ヒーマンになる」という設定であり、そのかけ声である「I HAVE THE POWER!(力は我にあり!)」もここから生まれます。つまり変身ヒーロー物の要素をつけ加えたのです。

男の子にとって一瞬にしてたくましい男になる、というのは根本的な願望の一つです。キャプテン・アメリカは超人血清によって華奢な男性が一瞬にしてマッチョになります。シャザムも魔法の言葉で少年がムキムキの大人になります。こうしたカタルシスに通じるものがあったのでしょう。ヒーマンという名前もHE-MANとつづり、「彼」であり「男」ですから、男の中の男みたいなニュアンスなんでしょうね。主人公の相棒バトルキャットもおとなしい大猫が、魔法の剣で鎧で武装した虎=バトルキャットに変身するという設定になりました。
ここでトリビアですが、当初ヒーマンのフィギュアを出した際、彼が乗るメカの生産が間に合わなかったそうです。そこでMOTU前にマテルが展開していたBIG JIMという冒険ヒーロー物の人形シリーズの中にたまたま虎のフィギュアがあり、その金型を利用して、ヒーマンが乗る虎=バトルキャットを作ったそうです。
伝説のドルフ・ラングレン版映画『マスターズ/超空の覇者』
さて、アニメ等を機にMOTUは大ブレイク。アダム王子の双子の妹シー・ラを主人公にしたアニメも作られました。コミックも一時マーベルやダークホースから展開されたこともあります。玩具店ではフィギュアやプレイセットがずらっと並びます。なお日本では『魔界伝説ヒーマンの闘い』の名で発売されたこともあります。
筆者がMOTU人気を実感したのは1989年の映画『ゴーストバスターズ2』を観た時でした。映画の冒頭で子どもたちがヒーマンの方がかっこいいとゴーストバスターズをバカにするシーンがあります。MOTUを語る上で忘れてはならないのは1987年(日本では89年)に公開された映画版です。邦題は『マスターズ/超空の覇者』。主人公のヒーマン役をドルフ・ラングレンが演じていました。
ただし、アダム王子から変身するシーンはなく、最初からヒーマンとして登場します。また主人公の相棒であるバトルキャットは出てきません。ヒーマンたちが地球に転送され、アメリカの若者たちと冒険を繰り広げます。エターニアのシーンは少なかったですが楽しい映画でした。『スター・ウォーズ』に関わっていた特殊視覚効果の大御所リチャード・エドランドが参加しており、プロデューサーのエドワード・R・プレスマンはアーノルド・シュワルツェネガーのヒロイック・ファンタジー『コナン・ザ・グレート』『コナン・ザ・デストロイヤー』を手掛けています。
また、ドルフ・ラングレンは1985年の『ロッキー4/炎の友情』のドラコ役で注目され、シルベスター・スタローン、シュワルツェネガーの次を担うとされたタフガイです。従って『スター・ウォーズ』×マッチョ系活劇を狙って作られたのでしょう。
この作品で感心したのは、地球の若者がヒーマンたちの戦いに巻き込まれるという設定です。MOTUのフィギュアの世界観だけで映画を作ると、エターニアだけで物語が完結してしまいます。つまり完全な異世界ファンタジー物になる。それはそれで「あり」でしょうが、やはり映画をより多くの人に受け入れられるものにするために(要はMOTUのおもちゃやアニメに親しんでこなかった人たちをこの世界に誘うために)、地球とエターニアの接点、地球人視点が必要だったのです。
アメリカではその後も人気は続き、何度かアニメ化され、ゲームやライブショーにもなり、最近ではNetflixで新アニメ・シリーズも配信されています。そして昨今のアメコミ・ヒーロー映画ブームやトランスフォーマー映画も根強い人気があることから、再び実写映画化を望む声が出てきます。そうして生まれたのが今回の『マスターズ・オブ・ユニバース』です。
“I HAVE THE POWER!(力は我にあり!)”と叫びたくなる快作!
本作では『マスターズ/超空の覇者』で試みた地球との接点という着眼点をさらに発展させて、アダム王子がエターニアから地球に逃れて暮らしているというお話にしました。しかも地球世界では、ちょっと浮いているというかヘタレな男。より観客がシンパシーを感じる主人公にしました。このあたり例えばマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『マイティ・ソー』や、昨年話題になったDC映画『スーパーマン』と似ていますよね。どちらも主人公が地球に流され、そこでの経験を経てヒーローとして覚醒します。そう、MOTUの最初の映画化である『マスターズ/超空の覇者』はヒーマンのタフさ、ヒーローらしさにフォーカスしていました。ここに登場する主人公は最初からヒーマンとして完成しているヒーローです。
しかし、『マスターズ・オブ・ユニバース』はどちらかというとヒーマンではなくアダムの物語なのです。「ヒーローとして完成」ではなく、いかに「ヒーローとして覚醒」するかという物語なのです。そして本作はバトル・アクション物として楽しませてくれる一方、マッチョで好戦的という“男らしさ”に対し、疑問を投げかける内容になっています。それは映画『バービー』が“世間から押し付けられる女性らしさ”に問題提起したのと通じるものがあります。
本作の監督トラヴィス・ナイトはこれまたおもちゃが原作のトランスフォーマー映画の一つ『バンブルビー』の監督です。『バンブルビー』は一人の少女とバンブルビーの心のふれあいがとてもよく描かれていてエキサイティングなアクションとエモーショナルなドラマ部分の融合が見事でした。本作もそれこそおもちゃ箱をひっくりかえしたようなワクワクするような冒険活劇であると同時に、アダム王子の成長がハートウォーミングに描かれています。
ネタバレになるから詳しいことは書けませんが、この映画は今までのMOTUへのオマージュや小ネタがいっぱいです。MOTUファンならニヤリとします。しかし、そんなことは知らなくても楽しめるスーパー・エンタテインメントです。特に主人公役のニコラス・ガリツィンが素敵です。最近では『ひつじ探偵団』で重要人物エリオットを演じていた彼です。これを機に大ブレイクするでしょう。

まさに「I HAVE THE POWER!(力は我にあり!)」、観る者に力を与えてくれる映画です。
▼『マスターズ・オブ・ユニバース』作品情報
監督:トラヴィス・ナイト
脚本:クリス・バトラー
出演:ニコラス・ガリツィン、カミラ・メンデス、ジャレッド・レト、イドリス・エルバ ほか
公開日:2026年6月5日(金)、全国の映画館にて公開
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