Netflixは世界展開から米国重視へ? ピーター・ライス起用と大型ヒット作戦略の行方
Netflixで大規模な人員削減と経営陣の刷新が進んでいる。同社は約1,000人、全従業員の約6%に相当する人員を削減すると発表。さらに、最高コンテンツ責任者(CCO)を務めていたベラ・バジャリアが退任し、米フォックスやディズニーで要職を歴任したピーター・ライスが後任に就任することになった。
加えて、10月19日には映画部門を率いてきたダン・リンの退任も報じられた。今回の一連の動きは単なる人員削減にとどまらず、米国・カナダ市場での大型ヒット作やフランチャイズの開発を重視する方向へ、Netflixのコンテンツ戦略が変化する前触れとなる可能性がある。
Netflix、ベラ・バジャリア退任の背景にある組織再編
Netflixの共同CEOを務めるテッド・サランドスは、以前から大規模な組織再編を示唆していたという。しかし、米『ハリウッド・リポーター』の報道によると、最高コンテンツ責任者を務めていたバジャリア本人は、自身の退任を直前まで知らされていなかったとされる。
バジャリアは、フランス・カンヌで開催されたMIPCOMの期間中に表彰を受け、その翌日にはFIFAワールドカップのメディア放映権に関する大型契約を発表するなど、通常どおり業務を進めていた。一方、社内では人員削減が進められ、バジャリア自身も従業員に削減について説明していたという。
そのため、バジャリアの退任と、フォックスやディズニーで要職を歴任したライスの最高コンテンツ責任者就任が社内に伝えられると、従業員の間には驚きが広がった。
サランドスは今年、HBOのトップであるケイシー・ブロイズと複数回にわたって会食していた。Netflixのオフィス近くにあるレストランでの会食は公然と目撃されており、関係者の1人は「周囲に見せるためだった」と指摘。こうした動きは、バジャリアに対する事実上の警告だったのではないかとの見方も示した。
今回の人事刷新は、株価の下落に直面していた従業員にも影響を及ぼしている。Netflixは報酬の一部を自社株で受け取ることを従業員に推奨しているが、株価は前年から大幅に下落しており、株式報酬を選択した従業員への影響も懸念されている。
映画部門でも再編、ダン・リンの退任が報じられる
バジャリアの退任に続き、映画部門を率いてきたリンの退任も報じられた。米『TheWrap』によると、リンの退任により、Netflixのコンテンツ部門では経営陣の大幅な刷新が進むことになる。
リンは2024年、バジャリアに招かれてNetflixに入社。それ以前は自身の制作会社を率い、『IT/イット』シリーズや『レゴ®ムービー』シリーズなどを手がけた実績を持つ。
Netflixでは、映画制作における支出の抑制と、複雑化していた映画部門の業務整理を期待されていた。従来は、同じ企画が異なる映画部門のチームに持ち込まれ、それぞれ異なる判断が下されることもあったという。
リンはこうした状況を改善するため、予算規模ではなく、スリラー、SF、ロマンティックコメディーといったジャンルごとにチームを再編した。
その後、『親愛なる八本脚の友だち』や『あなたとわたしの夏の旅』、『エイペックス・プレデター』などの作品を送り出してきた。しかし、視聴者の関心が多様化し、短時間で楽しめるコンテンツが増えるなか、Netflixにとっても視聴者の関心を持続的に引きつけることが課題となっている。
特に競争相手として存在感を増しているのがYouTubeだ。膨大な量のコンテンツを提供する同サービスは、時間帯やジャンルを問わず視聴者の関心を集めている。ユーザーが投稿する動画を中心とするYouTubeは、制作費のかかる映画やドラマを主力とするNetflixとは異なるコスト構造を持つ。
また、映画製作者の間では、Netflixが提示する高額な報酬よりも劇場公開を優先する動きも出ている。オリヴィア・ワイルド監督の『ザ・インバイト(原題:The Invite)』も、今年のサンダンス映画祭を経て、劇場公開を視野に入れた作品の一例として挙げられている。
ピーター・ライスの加入でNetflixのコンテンツ戦略は変わるのか
今回の人員削減や人事刷新が、Netflixの組織改革の最終段階とは限らない。
関係者の間では、ライスが10月26日に正式に着任した後、コンテンツ部門の再編や新たな人材の採用について、大きな裁量を与えられるとの見方もある。
ライスの特徴は、Netflixの社内でキャリアを積んできた幹部ではなく、外部から招かれたハリウッドのベテランであることだ。
サランドスや、Netflixで幹部を務めたシンディ・ホランドは、同社がDVDの郵送レンタル事業を中心としていた時代から在籍し、ストリーミング事業への移行とオリジナルコンテンツの拡大を経験してきた。
一方、バジャリアもNBCユニバーサルからNetflixに移籍した後、社内で経験を積み、最高コンテンツ責任者へと昇進した人物だ。
ライスは、こうした社内出身の幹部が中心となってきた経営体制に、外部から新たな視点をもたらす存在となる可能性がある。
ライスはフォックスやディズニーで長年にわたり要職を務め、映画とテレビの双方で豊富な経験を積んできた。過去にともに仕事をした幹部や、ハリウッドの中堅層にいる人材とのつながりも、新体制の構築に生かされる可能性がある。
世界展開を維持しつつ北米市場を重視、大型フランチャイズ開発も焦点に
バジャリアが率いたコンテンツ戦略の大きな成果の1つは、Netflixの作品展開をグローバル化したことだ。各国・地域のチームにオリジナル作品の開発を任せ、世界中の視聴者に届ける体制を整えた。
その結果、『イカゲーム』や『アドレセンス』など、国境を越えてヒットする作品が生まれた。
しかし、世界的なヒット作を生み出す力を持つ一方、Netflixは長い歴史を持つ映画スタジオと比べると、長期的に展開できるフランチャイズや、価値の高い知的財産(IP)の蓄積で後れを取っている。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの資産取得を目指した動きも、こうしたコンテンツ資産を強化する機会として注目された。ただし、Netflixは最終的に買収競争から撤退している。
ライスの就任によって、今後のコンテンツ戦略に変化が生じる可能性がある。
サランドスは従業員向けのメッセージで、今回の変更について「今年すでにさまざまな変化があったなかで、これは大きな転換だ」と説明。そのうえで、特に米国・カナダ市場で、加入者が愛し、世界中で話題になるような大型ヒット作を生み出すため、作品ラインアップを次の段階へ引き上げる機会になるとの考えを示した。
この発言からは、Netflixがグローバル展開を維持しながら、北米市場での大型作品の創出にも力を入れる可能性がうかがえる。シリーズ化や続編制作などを通じて長期的な展開が見込めるフランチャイズの開発も、今後の焦点となりそうだ。
同社では広報部門でも複数の幹部が退職対象となるなど、組織のさまざまな領域で見直しが進んでいる。
投資調査会社ライトシェッド・パートナーズのアナリスト、リッチ・グリーンフィールドは、米CNBCの番組『スクワーク・ボックス』で、ライスがフォックスやディズニーでリスクを取ってきた経験に注目。Netflixがこれまで以上に大胆な判断を下し、視聴者の利用拡大につながる突出したヒット作を生み出すことが、今回の起用の狙いではないかとの見方を示した。
グリーンフィールドはさらに、今後数年でNetflixが大きな賭けに出る場面が増えると予想している。
YouTubeをはじめとする競合サービスとの競争が激化し、視聴者の関心を維持することが課題となるなか、Netflixは組織の刷新とコンテンツ戦略の見直しを迫られている。ライスの加入と新たな経営体制が、同社の次なる成長を支える転機となるのか。今後の作品ラインアップと経営判断が注目される。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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