『SHOGUN 将軍』製作者が語る、6年に及ぶ制作期間の紆余曲折 ―「ずっとカオス状態だった」【インタビュー】
今年のエミー賞で、最多25部門にノミネートされたドラマ『SHOGUN 将軍』(Disney+で配信中)のクリエイター、レイチェル・コンドウ&ジャスティン・マークスが、米『ハリウッド・リポーター』のインタビューに登場。
ジェームズ・クラベルによる1975年の小説に基づく『SHOGUN 将軍』は、日本・欧米のクルーが6年をかけて共同製作。作品は批評家から高い評価を獲得し、その真正性(オーセンティシティ)が称賛された。
実生活でもパートナー同士のコンドウとマークスが、『SHOGUN 将軍』の製作における困難や喜びについて語った。
――エミー賞へのノミネート、おめでとうございます。テレビアカデミーから評価を受けたことは、あなたとこの作品にとって、どんな意味を持っていますか?
レイチェル・コンドウ:この作品は私にとって、業界での初めての仕事なんです!
ジャスティン・マークス:僕の初めての仕事は、映画『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』の脚本でした。『SHOGUN 将軍』が5~6年の製作期間を経て、 こんなにも沢山のノミネート者を出せたことは、本当に夢のようですね。
前例のない作品なので、全員で完成への道を模索しました。なので、クルーたちは時に雪や雨にさらされながら、大いなる犠牲を払い、『SHOGUN 将軍』を実現したのです。また、キャスト陣は、1600年代に話されていた日本語で演技し、人間らしく表現する必要がありました。
コンドウ:テンプレートがなかったからこそ、上手くいったのではないかと思います。今は意図的に見えるかもしれませんが、 かなりカオスな状態でした…正直に言うと、長い間ずっとカオスだったんです。
――本作は大部分が日本語ですが、アメリカのプロダクションによって製作されています。どのような困難に直面しましたか?
コンドウ:私はハワイ生まれの日系アメリカ人ですが、その背景が大いに役立つわけではありません。舞台は400年前ですし、ベテランの中のベテランである真田広之さんを含め、作品に携わるすべての人々にとって新しい経験だったのです。
真田さんは、その時代特有の言い回しを取り込み、共演者たちが理解の困難なセリフを話す方法を見つけるのを手伝ってくれました。
マークス:この作品で単純なことは何一つありませんでした。 キャラクターのセリフに関しては、それをどのように話すか、どのような方言が機能するかが最も困難な問題でした。
綿密な調査を重ね、アドバイザーには何度も意見をうかがいました。「正しいところを教えてください」ではなく、「修正するために、間違っているところを教えてください」という姿勢でしたね。
――日本の歴史学者たちも、本作の真正性(オーセンティシティ)を称賛しています。
マークス:僕たちにとっては、この作品は時代劇ではなく、SFを作っている感覚だったんです。観ている側がこの世界に存在する人間らしさを信じ、ただキャラクターを追いかけることができるように、細部に至るまで世界を構築しなければならなかったからです。
そのためには、高度な特異性を追求する必要があるでしょう。映画的なリアリティーを目指すという点では、日本のテレビ・映画界で活躍されている方々が非常に頼りになりました。僕たちは“正確さ”というよりも、一定の“真正性”を追求していたのです。
僕らは日本国籍を持っていませんが、この国際的な物語を、自分たちの枠を少しだけ飛び出して語ろうとすることはできます。そして、今や両方の大陸で認められつつあるクルーが、まさにそれを見事に成し遂げたのです。
コンドウ:ある時点で、日本のドラマを制作しようとしていることに気付いたのですが、やがてアメリカ人やカナダ人であることの重みを感じたのです… そして、皆で集まり、『日本のプロダクションは優秀で、自分たちで物語を生み出すことができるから、私たちは全く新しいものを作らなければならない』と悟りました。
一方、本当に多くの視点や意見が集まった作品なので、完全に欧米のプロダクションというわけではありません。よって、私たちが作れるのは、両方を融合させた作品なのです。
――撮影が特に困難だったシーンはありますか?
マークス: 天候やコロナに関しては、撮影は『今日は何ができないのか』ということの連続です。でも何よりも、全員にとって大変だったのは、その期間の長さでした。コロナによる休止は、本当に骨の折れる経験だったんです。
最も象徴的なのは、撮影が終盤に差し掛かった頃のことです。その時点で、コロナに感染する可能性のある人は皆すでに感染していたと思います。だから、「もう検査で撮影中止になることはないだろう。虎永(真田)と彼の鷹のシーンの撮影をやってしまおう」という感じでした。すると、鳥インフルエンザが広まってしまい、鳥との野外撮影ができなくなってしまったんです。
『SHOGUN 将軍』はあらゆることが起こり得る作品の1つで、全員が協力し合いながら逆境に強くなれたと思います。そのことが、最終的にこの作品を観るのをとても満足のいくものにしているのです。
コンドウ: 鷹は無事でしたよ!
マークス: それが『SHOGUN 将軍』の道のりですね。つねに予期せぬ出来事に方向転換しようとして、それに全力で立ち向かいました。
――キャストの大半は、日本の映画業界で活躍している方々を起用されました。
マークス:そのことは、僕のキャリアの中で最大の喜びの1つです。彼らの日本語での演技や、出演作のファンなんです。『SHOGUN 将軍』を日本語で制作した大きな理由の1つは、英語が話せないため普段はこのような作品に出ることが難しい俳優の方々と仕事ができるということでした。
なので、エミー賞にもノミネートされた浅野忠信さんが、アメリカの映画に出た時の人格ではなく日本語で演技するときの人格が反映された藪重を作り上げ、心から演じるのを見られるのは、僕たちが(日本語で制作した)理由です。
そして、アメリカの視聴者に馴染みのなかった俳優の方々が、広く知られるようになっているのも、その理由ですね。ノミネートの有無に関係なく、それを非常に誇りに思っています。
――『SHOGUN 将軍』を『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較する意見について、どのようにお考えですか?
マークス:僕たちが語ろうとした物語には、あまり合っていません。当時、『SHOGUN 将軍』の脚本家たちが一番観ていたのは『メディア王~華麗なる一族~』だった、といつも冗談を言い合っています。
そして、それが示すのは、『SHOGUN 将軍』は特定の方法で人間の本質を描く非常に悲劇的な喜劇であるということです。原作者ジェームズ・クラベルが見出したユーモアを、皮肉的な方法ではありますが、この作品で引き出そうと懸命に取り組みました。
――シーズン1の最終回で起きたことを考えると、つねに次のシーズンを予想していたのですか?
マークス:脚本家の作業ルームでは“ファンフィクション”の状態で、いざ現場で撮影となると“現実になったフィクション”という感じだったんです。『もし続けるならどうする?』と皆が口にし始めて、原作者ジェームズ・クラベルの娘・ミカエラ、そして製作会社FXの共同社長・ジーナ(・ベイリアン)と『こんなアイデアがあるんですが、どうでしょう?』と話し合いをスタートしました。
テレビの世界では、最高を望み、最悪に備える必要がありますよね?もし上手くいかなかったら、完全なストーリーを構築し、価値のあるものだと思ってもらえるくらいに人々から気に入られることを願います。
一方で、もし上手くいけば、『もっと語りたいことがある』と言えるでしょう。それが、僕ら脚本家たちの現在地ですね。語りたいことは本当に沢山あります。今のところ、非常に素晴らしいプロセスを歩んでいますよ。
※初出は米『ハリウッド・リポーター』(8月単独号)。本記事は英語の記事から抄訳・編集しました。翻訳/和田 萌
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