AI映画『オデュッセウス:ザ・フォール』登場 製作費数万ドルでノーラン『オデュッセイア』と同じ英雄を描く
AI映画『オデュッセウス:ザ・フォール(原題:Odysseus: The Fall)』が発表された。人工知能(AI)を活用して制作された本作は、クリストファー・ノーラン監督の新作『オデュッセイア』と同じギリシャ神話の英雄オデュッセウスを描く作品である。
一方は約2億5,000万ドル(約415億円)の製作費を投じたハリウッド大作、もう一方は5万ドル前後の規模でAI技術を駆使して制作された映画だ。
異なるアプローチで生まれた2本の「オデュッセウス」の物語は、映画制作におけるAIの可能性と、人間の創造性の役割を改めて問いかけている。
※1ドル=166円換算
製作費数万ドル規模 AI映画『オデュッセウス:ザ・フォール』の挑戦
『オデュッセウス:ザ・フォール』を手がけたのは、AI映像制作会社ファウンテン・O(Fountain O)。同社にとって2本目となるAI生成長編映画である。
監督を務めるのは、イラン系映像作家アッシュ・クーシャ。クーシャは、製作費わずか2,000ドル(約33万円)で制作したAI生成映画『ドリーム・オブ・ヴァイオレッツ(原題:Dreams of Violets)』でトライベッカ映画祭で上映デビューを果たした。
今回の『オデュッセウス:ザ・フォール』は「5桁中盤」規模の予算で制作されたとされ、5万ドル前後の長編映画となる。
クーシャ監督は、本作について「クリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』が興行的に大成功することを願っている。そして、私たちによるオデュッセウスの解釈が、その成功をさらに後押しできればうれしい」とコメント。
さらに、「究極の人間による創造物と、1人の人間とAIの共同制作を比較することで、普段映画館に足を運ばない人にも両作品に興味を持ってもらえるかもしれない」と語っている。
「溺れる男の最後の記憶」 英雄譚を再解釈した物語
『オデュッセウス:ザ・フォール』は、一般的な英雄の帰還物語とは異なる視点でオデュッセウスを描く。
ファウンテン・Oによる作品紹介では、本作は「溺れる男の最後の数分間に浮かぶ断片的な記憶」を描く物語と説明されている。
その旅は単なる冒険ではなく、自身の過去と向き合う試練となる。現れる怪物たちは彼自身の記憶や行動を反映し、「賢い英雄」という評価を失った後に残る、一人の人間としてのオデュッセウスの姿が描かれる。
物語は英雄の凱旋ではなく、彼を最も理解する人物からの赦しによって終わるという、従来の神話とは異なる解釈が特徴だ。
俳優、セット、カメラをAIで代替 人間の創造性は不可欠
俳優、セット、カメラといった従来の映画制作工程は、AIモデルによって再現された。
一方で、脚本、映像のイメージ設計、キャラクターの声の制作については、クーシャ監督自身が人間としての創造性をもって担当した。
つまり『オデュッセウス:ザ・フォール』は、人間をAIが完全に置き換える作品ではなく、人間のアイデアをAI技術によって拡張する映画制作の実験ともいえる。
一方のクリストファー・ノーラン監督版『オデュッセイア』では、マット・デイモンが主人公オデュッセウスを演じる。
妻ペネロペ役にはアン・ハサウェイ、息子テレマコス役にはトム・ホランドが出演するほか、ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン、ルピタ・ニョンゴ、シャーリーズ・セロンら豪華キャストが名を連ねる。

中国製AI動画生成ツール「Kling」など最新技術を活用
制作には、中国発のAI動画生成ツール「Kling」が映像生成に使用された。
さらに、Googleの画像生成ツール「Nanobanana」、Anthropicの「Claude AI」、Googleの「Gemini」など複数のAI技術を組み合わせ、映像制作や編集、リサーチに活用したという。
また、ファウンテン・O独自の技術は、キャラクターの動きの制御、フレーム単位での映像精度向上、世界観や環境の生成(ワールドモデリング)などに用いられた。
プロデューサーのプーヤ・クーシャは、「Klingへの賞賛はいくらしてもしきれない」と語り、AI技術の進化によって新たな映画制作の可能性が広がっていることを強調した。
「AIはストーリーテラーへの脅威ではない」監督が語る映画の未来
AIによる映像制作の普及をめぐっては、ハリウッドでも雇用や創作活動への影響を懸念する声が上がっている。
しかしクーシャ監督は、AIは映画制作者を脅かす存在ではないと主張する。
「AIが脅威になるのは、物語を持つ人間と、それを伝える手段との間にある距離だけだ。スマートフォンのカメラによって誰もが映像を撮影できるようになったように、この方法によってより多くの映画が作られることは間違いない」
「変化の中で残るべきものは、これまでもっとも重要だったもの——物語と、それを語る理由である。道具そのものが映画を作るのではない。伝えるべき何かを持った人間こそが、これまでのすべての映画を生み出してきた」
クーシャは、AI時代においても映画の本質は変わらないと語っている。

CNBC創設にも関わった重鎮が参加 AI映画制作の新モデルを模索
ファウンテン・Oのエグゼクティブチェアマンを務めるのは、NBCケーブル部門在籍時にCNBC創設に携わったメディア・テクノロジー業界の重鎮トム・ロジャースである。
ロジャースは、AI技術によって映画制作の民主化を進めながら、従来型の大作映画と比較することで、AIが現在どこまで映画表現に貢献できるのかを示したいと考えている。
ファウンテン・Oは今後もAIを活用した映画・テレビシリーズ制作に取り組む方針だ。
AI映画とハリウッド大作が同じ古典から描く「映画の未来」
前作『ドリーム・オブ・ヴァイオレッツ』は現在、商業配信先が決定していないが、ファウンテン・O公式サイトではレンタル配信を予定している。
『ドリーム・オブ・ヴァイオレッツ』は7月17日から配信開始予定で、『オデュッセウス:ザ・フォール』は今夏配信予定となる。
クリストファー・ノーラン監督による『オデュッセイア』と、AI技術を活用した『オデュッセウス:ザ・フォール』。
同じギリシャ神話を出発点にしながら、まったく異なる制作手法で生まれた2作品は、これからの映画制作における「人間とAIの関係」を考える重要な比較対象となりそうだ。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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