【インタビュー】『私たちは、ちょうどいい。』トレイシー・レイモン監督が語る、人生を変えた小さな優しさ「自分の居場所はきっと見つかる」
SNSでの人違いから始まった、かけがえのない友情を描く感動作『私たちは、ちょうどいい。』が、9月11日(金)より劇場公開される。
この度、ハリウッド・リポーター・ジャパンは、トレイシー・レイモン監督にインタビューを実施した。
住み込みで友人の介助をしながら暮らすリリー・トレヴィノ。幼い頃に母に捨てられ、父とも疎遠になった彼女は、孤独を抱えながら生きていた。ある日、父と連絡を取ろうとSNSで父を探し始めたリリー。だが、父だと思って友達申請を送った相手は、父と同姓同名の見知らぬ男性、ボブ・トレヴィノだった。偶然つながったリリーの孤独に気づいたボブは、彼女にそっと寄り添いはじめる。 何気ないメッセージのやり取りを重ねるうちに、リリーとボブの間には少しずつ特別な友情が芽生えていく。ただの人違いだったはずの出会いは、やがてふたりにとってかけがえのない居場所になっていく。
【動画】『私たちは、ちょうどいい。』本予告|9月11日(金)公開
本作は、監督・脚本を手掛けたトレイシー・レイモンの実体験に着想を得た物語。レイモン監督初の長編映画で、米批評サイトRotten Tomatoesでは観客スコア98%の高評価を獲得している。
SNSを通じて疎遠だった父親と連絡を取ろうとしたレイモン監督は、同姓同名の男性と偶然つながり、“いいね”が届くようになる。勘違いから始まった交流だったが、彼から届く「誕生日おめでとう」「頑張ってね」という何気ない小さな親切が、やがてレイモン監督の人生に大きな意味をもたらしていく。
インタビューでは、SNSで出会ったボブとの実際の交流、映画化を決めた理由、血縁の家族と自ら選んだ家族への思いについて語ってくれた。
SNSでの勘違いが人生を変えていく、嘘のような本当の話
――SNSで出会ったもうひとりのボブさんとの友情を、映画化しようと思った原動力は何だったのでしょうか。
トレイシー・レイモン監督(以下、レイモン):ボブは、私にとってかけがえのない存在でした。それなのに彼がどれほど大切な人だったのかを周囲にほとんど話してこなかった。そのことをすごく後悔していました。ボブ本人にも「ありがとう」ともっと伝えておけばよかったと思っています。
だからこそボブとの友情を映画を通して分かち合いたかった。この思いが本作を作る原動力になりました。ボブと出会えて私は本当に幸せです。彼から受け取ったものを、今度は私が世界へ伝えていく番だと使命のようなものも感じていました。

ボブが私に与えてくれた何気ない優しさには、人生を変えていく力があります。ときに無力さを感じ、自分の小さな行動にどれほどの意味があるのだろうと疑う日もあります。それでも、どんなに小さな親切にも必ず意味があると私は信じています。
誰かの小さな優しさがなければ、今こうして世界の反対側にいる日本の皆さんと話すこともなかった。何気ない優しさが人をつなぎ、人生も変えていく。その美しさを伝えたかったのです。
――本作は実体験をもとにした物語ですが、ボブさんとは実際にどのような交流があったのでしょうか。
ボブが暮らしていたカンザス州ウィチタは、私の祖父母の出身地でもありました。父と同じ名前で、祖父母にゆかりのあるウィチタに住んでいたことから、Facebook上のボブを「父親なのでは」と勘違いしてしまったんです。
もちろん人違いだったのですが、それでもボブと奥様は私にとても温かく接してくれました。誕生日には「おめでとう」とメッセージをくれ、何気ない日にも「頑張ってね」と声をかけてくれたり。交流は9年以上にわたりました。
実父はそうした言葉を一切かけてくれなかった。だから父と同じ名前の人から「誕生日おめでとう」とメッセージが届くことは、オンライン上とはいえ私にとって特別な意味があったのです。いつかボブに感謝を伝えたいと考えていました。

そこで、ボブとの友情を描いた短編映画を制作して映画祭に出品することにしました。選出されたら本人を映画祭に招待して「あなたがくれた優しさは、私の人生にこんなにも大きな意味を与えてくれた」と直接伝えようと夢見ていたんです。
でも、何度出品しても選ばれませんでした。それから月日が流れ、本作となる長編映画を完成させたところ、思いがけず映画祭の方から「クロージング作品として上映したい」とオファーをいただきました。人生っておもしろいですよね。もしあのとき短編映画が評価されていたら、長編映画を作ることはなかったですから。
ようやく映画祭で上映する夢が叶ったときには、ボブは亡くなっていました。それでも奥様をはじめ、40人以上のご家族が映画祭に駆けつけてくれたんです。今でも奥様や娘さんとの交流は続いています。実は買い物のシーンでレジ係を演じているのはボブの娘さんなんですよ。
それから、実父が亡くなる前に自分の遺灰を故郷のウィチタに埋葬してほしいとお願いされていました。なので映画祭に合わせて、父の遺灰と一緒にウィチタへ戻ることもできました。
映画祭を通して、私の血縁の家族と、「chosen family(自ら選んだ家族)」であるボブの家族が、初めて同じ場所に集まったのです。心が癒やされていくような不思議で特別な体験でした。
「リリーは自ら人生を切り拓いてきたサバイバー」
―― リリーを演じたバービー・フェレイラさんは、見捨てられることへの不安や恐れをとてもリアルに表現していました。彼女を起用した決め手は何だったのでしょうか。
レイモン:バービーには、自分の心を無防備にして、脆さをさらけ出す強さがあります。『Unpregnant(原題)』ではユーモアあふれる演技を、『ユーフォリア/EUPHORIA』では脆さを繊細に表現していました。

リリー役で大切だったのは、脆さよりも生き抜く強さを表現できることでした。バービー自身も、誰かに用意された道を歩いてきたのではなく、自らの力で道を切り開いてきた人物です。脚本を書いているときに『ユーフォリア/EUPHORIA』でバービーを見て、「彼女しかいない」と感じました。
リリーは、つらい経験にただ翻弄されるだけの人ではありません。正面から困難に立ち向かってきたサバイバーなのです。リリーのような人が、価値のない存在であるかのように扱われるべきではないことも、バービーを通して伝えたかったことです。
――もうひとりのボブを演じたジョン・レグイザモさんは、素朴さや温かさを自然に表現していましたね。ボブというキャラクターを作り上げる上で大切にしたことを教えてください。
レイモン:ジョンには、持ち前のチャーミングさや人懐っこさ、ユーモアをあえて前面に出さず、抑えた演技をお願いしました。少しでもそうした表情が見えると、観客のボブへの信頼が揺らいでしまうと思ったからです。そうすることで、これまでとは違う静かで繊細な演技が生まれました。

ジョンが演じる役といえば、ユーモアがあってクレイジーな印象が強かったと思います。なので思慮深いボブを演じ、新たな一面を見せてくれたことがとても嬉しかったです。
クリストファー・ノーラン監督作『オデュッセイア』でも、ボブに通じるような誠実な人物を熱演し、その演技が評判になっていると聞きました。
――実父ロバートは、もうひとりのボブとは対照的なキャラクターですが、演出する上で意識したことはありますか。
レイモン:実父ロバートについては、悪い父親として描くつもりはありませんでした。フレンチ・スチュワートをロバート役に起用したのは、偶然の出会いがきっかけです。
私が参加していたオンラインの脚本グループにフレンチの奥様がいて、フレンチが実父のセリフを読んでくれる機会がありました。その演技があまりにも素晴らしくて、「必ずこの映画を作るので待っていてください」とその場で伝えました。そして1年後に、約束通りロバート役をオファーすることができたんです。

「自分の居場所はきっと見つかる」血縁の家族、自分で選んだ家族への思い
――ボブの妻ジーニーの趣味であるスクラップブッキングのアルバムがとても印象的でした。実際のエピソードから着想を得たものなのでしょうか。
レイモン:子どもの頃、親友のお母さんがスクラップブッキングのアルバム作りを趣味にしていて、親友の部屋には壁一面に写真が飾られていました。親友は「写真が部屋を占領してる」と不満そうでしたが、私にはそれがとても羨ましくて、「なんて素敵なんだろう」といつも眺めていたんです。
というのも、父は私の子どもの頃の写真を大切に残してくれる人ではなかったのです。写真をゴミ袋に入れて渡されたこともあります。父が亡くなった後にアパートを訪ねたときも、私の写真は一枚も残っていなかった。
そんな経験があるので、どんなに自分が小さく映った写真でも、大切に扱ってくれることに特別な意味を感じるんです。

本作では「ある人にとってのゴミは、別の誰かにとっての宝物」というセリフが登場します。自分を傷つける人がいても、宝物のように大切に思ってくれる人がいる。そして、ありのままの自分を愛してくれて、「ここが自分の居場所だ」と思える環境がきっとある。そんな思いを、手作りの温もりや手触りが感じられるアルバムを通して表現したかった。
ジーニー役のレイチェル・ベイ・ジョーンズには、親友のお母さんとオンラインで話してもらいました。たくさんのアルバムや道具を見せてもらう中で、レイチェルは「アルバム作りそのものが、誰かを大切に思う気持ちの表れだ」と気づいたそうです。その言葉を聞いて、私自身もハッとさせられました。
――現代では孤独や生きづらさを抱え、自分の居場所を探している人も多いと思いますが、本作を通してどのようなメッセージを届けたいですか。
レイモン:家族は、必ずしも血のつながりだけではないと思っています。もちろん血縁の家族も大切ですが、自分で選んだ家族、友人、そして感性が似ている人が、かけがえのない存在になることもあるのです。
人との出会いは、思いがけないところからやってくるものです。だから未知の出会いにオープンでいてほしい。誰かとつながれば孤独も和らぎますから。自分を大切に思ってくれている人がいても、心を閉ざしていたら気付きませんよね。

セラピストからよく言われるのが、「金物屋に牛乳を買いに行ってはいけない」という言葉です。牛乳を売っていない店に行っても手に入りません。それと同じように、自分を傷つける人に愛情を求めなくてもいいのです。
その人から距離を置いて関係を手放すことで、自分を本当に愛してくれる人と出会える余白が生まれます。心を開くことや手放すことの大切さを、私自身強く実感しています。
【作品情報】
『私たちは、ちょうどいい。』

監督・脚本:トレイシー・レイモン
出演:バービー・フェレイラ、ジョン・レグイザモ、フレンチ・スチュワート、ローレン・“ロロ”・スペンサー、レイチェル・ベイ・ジョーンズ
2025年|102分|アメリカ|英語|5.1ch|原題:BOB TREVINO LIKES IT|カラー字幕翻訳:白取美雪|配給:AMGエンタテインメント©2024CHOSEN FAMILY, LLCAll Rights Reserved
9月12日(金)より全国順次公開
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