日本の映画支援政策に不可欠な改革とは――『TOKYO VICE』プロデューサーが提言「透明性を高めよ」
今年、日本政府はコンテンツ産業の成長を目指す戦略「IP360」を打ち出した。この政策は、2033年までに日本発コンテンツの海外売上高を20兆円に引き上げることを目標としている。
一方で、映画やドラマ、アニメ業界関係者からは、その制度設計や支援の基準をめぐり、懐疑的な声も挙がっている。特に、最低予算要件が引き上げられたことが大きな懸念を招いている。
この政策に対し、「国内のスタッフやプロデューサーが、海外プロジェクトを通じて貴重な経験を積む機会が失われかねない」と指摘するのは、ドラマ『TOKYO VICE』(2022年~)などを手がけるプロデューサーのアレックス・ボーデン氏だ。
同氏は、第39回東京国際映画祭内で開催された米国映画協会(MPA)主催の年次セミナーに登壇した翌日、米『ハリウッド・リポーター』の取材に対応。この制度の課題や、低予算作品の重要性、国際共同製作の意義、そして日本が映画ツーリズムを推進すべき理由について語った。
映画の日本ロケ誘致に逆風?「最低予算8億円」という政策の壁
この政策では、支援対象となる作品の条件として、アニメは「製作費6億円以上」、実写は「製作費8億円以上」であることとしている。製作費8億円以上といえば、大手映画会社が手がける大作映画の規模に含まれる。これほど大規模な予算を扱った経験を持つ日本のプロデューサーは、ほとんどいないのが現状だ。
こうした予算要件からは、日本政府が大作映画やシリーズ作品を重視していることがうかがえる。裏を返せば、大半のインディペンデント映画や、多くの共同製作作品は支援対象から外れることとなる。
ボーデン氏は、「日本には、これほど大規模の作品を製作した経験のあるプロデューサーはほとんどいない。では、いったい誰に頼めばいいのだろうか」と難色を示す。
また、同政策は、海外スタジオ主導による日本国内でのロケ撮影やVFXなどの編集作業についても、「日本国内での製作費8億円以上」という条件のもとで支援するとしている。しかし欧米でも、8億円規模の予算を確保できない作品は数多く存在する。
ボーデン氏は、「日本が最近、共同製作協定を締結した国々の作品を含め、多くのヨーロッパ映画が日本で撮影できなくなるだろう」と指摘。具体的には、「撮影の半分、あるいは全編を日本で行う予定だった作品も、計画を根本的に見直さざるを得ない。日本国内での支出を抑え、撮影を5~10日程度にとどめ、残りは海外で行うようになるのではないか」と予測する。
ボーデン氏自身も、低予算・中予算の作品からキャリアをスタートさせた。「こうした規模の映画は、映画業界で働く人々が、技術やノウハウを習得するための重要な場だ」と、同氏は強調する。
国際共同製作が生む相互利益とは?“不透明な手続きと基準”が障壁に
さらに現在の日本政府は、海外作品の日本誘致よりも、日本発コンテンツの海外展開に重点を移そうとする動きも見られる。
これに関してボーデン氏は、「どちらか一方を選ぶ必要はないし、そうすべきでもない。一方がもう一方を後押しする関係であるべきだ」と語った。
MPAの年次セミナーでも、この点は繰り返し議論された。日本の俳優は海外の作品に参加することで経験を積み、恩恵を受けられる。また、海外の人材が日本の作品に参加する場合にも、同様の効果が期待できる。日本と海外のクリエイターたちが共同でプロジェクトを進めることで、このように“相互利益”が生まれる。
また、作品の規模を問わず、審査基準や申請手続きが不透明なことも、日本でのロケ撮影を決断する際の障壁になっている。日本の業界関係者からも、同様の不満が聞かれるという。
ボーデン氏は、「海外での収益拡大を目的としているはずの支援制度を、なぜ分かりにくくする必要があるのか。制度の内容を完全に不透明にし、英語にも翻訳しないというのは、海外作品を誘致しようとする国としては非常に珍しい。最も重要なのは、制度をもっと開かれたものにすることだ」と訴えた。
ボーデン氏は東京滞在中に経済産業省の担当者と面会し、新制度について協議した。同省は現在、この制度の改善に取り組むタスクフォースを設置しているが、そのメンバーはまだ公表されていない。
ボーデン氏は、イギリスのプロダクション・ギルドで、4年間にわたり会長を務めた経験を持つ。イギリスでは近年、海外作品のロケ撮影の誘致に成功している。同氏によると、イギリスで税額控除制度の改革が行われた際は、専門の弁護士や会計士、プロデューサーらが緊密に関わったという。
「うまく機能している制度には、共通点が1つある。それは、透明性が高く、ガイドラインが非常に明確であることだ」と、同氏は明言した。
時代を超えて利益を生み出す――ロケツーリズムの真の価値
海外作品のロケ撮影誘致がもたらす経済効果は、撮影期間中だけにとどまらない。「聖地巡礼」でそのロケ地を訪れる観光客が増加することで、作品の公開後も継続的な経済効果が期待できる。
一方で、日本は現在、オーバーツーリズムの問題にも直面している。特に、映画やアニメ、漫画をきっかけに知られるようになった「聖地」では、観光客による混雑や迷惑行為などが問題となっている。そのため、政府はロケツーリズムの推進に消極的な姿勢を見せている。
しかしボーデン氏は、「そうした姿勢は間違っている」と指摘する。同氏は、ソフィア・コッポラ監督のヒット作『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)を例示し、このように語った。
「『ロスト・イン・トランスレーション』の舞台となったパークハイアット東京には、公開から約25年が経過した今でも、多くの人々が訪れている。ホテルが改装されたにもかかわらず、今なお訪問者が絶えないのは驚くべきことだ」

新宿のホテル「パークハイアット東京」では、同作の印象的な客室やバーのシーンが撮影された。
ボーデン氏は、「これこそロケツーリズムの力だ。映画は世界に日本を周知する役割を果たしてくれる。東京のような大都市であれば、観光客の増加にも十分対応できると思う」と、力強く主張した。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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