長塚京三『敵』の高評価に恐縮しきり「プレッシャー以外の何物でもない」
昨年の東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠に輝いた『敵』の公開記念舞台挨拶が18日、東京・テアトル新宿で行われ、長塚京三、瀧内公美、松尾貴史、松尾諭、吉田大八監督が出席した。
アジアのアカデミー賞といわれる第18回アジア・フィルム・アワード(AFA、3月16日発表)でも、日本映画最多の6部門でノミネート。だが、12年ぶりの映画主演となった長塚は「公開前の評判は、プレッシャー以外の何物でもない」と苦笑いだ。
対する吉田監督は、感慨深げな表情。「企画を始めたのはコロナ禍に入った頃で、この先できるのかと思いながらプロデューサーと2人でちまちまやっていたので、華やかな初日を迎えられまだ夢の中なのではないかと思う。ふと目覚めて、5年前のベッドの上に戻らなければいい」と話した。
元大学教授の渡辺儀助は人生の終わりから逆算し慎ましい生活を送るが、1本の不穏なメールによって平穏が脅かされていく物語。元教え子で教授を惑わす役どころの瀧内は、「実像なのか虚像なのか分からない。儀助が見る理想像として、私の中では実存していいという思った方がバランスが取れた。やりがいがありました」と振り返った。
儀助が数人の女性とともに食卓で鍋を囲むシーンでは、「微妙なニュアンスや繊細さが凄く面白くて、あまりに怯えている教授の新たな一面が見られました」と満足げ。長塚も「おおむね、うまくいったかな」と納得の笑顔。だが、そのシーンに居合わせなかった2人の松尾は、「うらやましかった」と声をそろえた。
吉田監督は、「長塚さん、瀧内さん、松尾貴史さん、松尾諭さんら全員の表情が変わっていくところにワクワクして、ひたすら楽しく撮っていた」と回想。長塚も、「悲劇とはとらず、新しい人生を再生するように(役を)カミングアウトできたかなと思います」と自信のほどをうかがわせた。
取材/記事:The Hollywood Reporter 特派員 鈴木元
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