【ホラー映画各ジャンル】恐怖の種類と魅力・おすすめ作品を紹介

“恐怖”の世界をテーマ別にたどりながら、各ホラージャンルとそれぞれのおすすめ映画作品を紹介する。
ホラー映画と一口に言っても、その恐怖のかたちはさまざま。
精神の崩壊を描くサイコホラーから、身体が変異するボディホラー、背筋を凍らせる心霊ものまで、多彩な恐怖がスクリーンを支配する。
単なる驚かせ役にとどまらず、ホラー映画は観る者の想像力を刺激し、深層心理に潜む不安や恐怖をあぶり出す装置でもある。作品によっては、日常と非日常の境界を揺さぶり、観客を未知の恐怖へと引きずり込んでいく。
1.サイコホラー
人間の内面、特に精神の異常や崩壊を題材にしたホラージャンル。外的な脅威よりも、登場人物の狂気や錯乱、妄想といった“心の恐怖”が物語の核となる。
観客は加害者や被害者の不安定な心理状態に翻弄され、次第に現実と虚構の境界が曖昧になる。
主な作品としては、狂気に取り憑かれた作家を描いた『シャイニング』、二重人格をテーマにした『サイコ』、異常心理を追うサスペンス『ブラック・スワン』などがある。
現在公開中のおすすめ作品は、ヒュー・グラント主演A24作品のホラー映画『異端者の家』。
2.ボディホラー
身体の変異や破壊をテーマにしたホラージャンルであり、人間の肉体が異常に変化していく様子に恐怖の本質がある。
感染、融合、暴走といった現象により、「自分の体が自分でなくなる」ことへの不安を描く。視覚的ショックが強く、グロテスクで不快感を伴う演出が多いのも特徴である。
主な作品としては、肉体の崩壊と変貌を描いた『ザ・フライ』、寄生によって身体が異形に変わる『スリザー』、人体改造の狂気を描く『ムカデ人間』などがある。
ボディホラーの最新おすすめ作品は、2025年5月16日に遂に日本でも公開されるデミ・ムーアとマーガレット・クアリー主演のカンヌ受賞作『サブスタンス』。
3.スラッシャー
正体不明の殺人鬼が次々と人々を襲う、シンプルながらも緊張感に満ちたホラージャンル。
犠牲者は若者グループであることが多く、ナイフや斧などの凶器を使った猟奇的な殺人が特徴。加害者のトラウマや動機が徐々に明かされる点も見どころとなる。
主なおすすめ作品としては、ブギーマンが若者を襲うホラー映画シリーズ『ハロウィン』、夢の中で殺人を行う『エルム街の悪夢』、ジェイソンによる惨劇を描いた『13日の金曜日』などがある。
4.超自然的ホラー
科学では説明できない現象を中心に描くホラージャンルである。幽霊や悪霊、悪魔、呪いといった超常的な存在が登場し、人間の信仰や魂、死後の世界への畏れをテーマにすることが多い。
恐怖の源は、過去に犯した罪や未解決の因縁にあり、超常的な存在によって現世に引き戻される。宗教的な儀式やエクソシズムが重要なモチーフとなることも多く、視覚や聴覚に訴える演出を通じて観客の深層心理に迫る。
主な作品としては、悪魔祓いをテーマにした『エクソシスト』、家に巣くう霊を描いた『ポルターガイスト』、悪霊との戦いを描く『インシディアス』などがある。
おすすめ注目作品は、来年全米公開が予定されている新作映画『ザ・マミー』。アリ・アスター監督の伝説的ホラー映画『ミッドサマー』出演のジャック・レイナーが主演を務める。
5.アクションホラー
ホラーにアクション要素を融合させたジャンルである。モンスターや超常的存在への「逃走」だけでなく、「対決」や「撃退」に焦点が置かれる点が特徴的だ。
恐怖の対象に立ち向かう登場人物たちは、武器や超人的能力を駆使し、サバイバル要素が色濃くなる。スリルとスピード感のある展開が魅力であり、エンタメ性も高い。
主な作品としては、ゾンビと戦う『バイオハザード』シリーズ、ヴァンパイアハンターを描いた『ブレイド』、怪物と人間の戦いを描く『ヴァン・ヘルシング』などがある。
アクションホラーのおすすめ注目作品は、エル・ファニング主演の映画『プレデター:バッドランド』。2025年11月7日より日本公開予定。
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6.ゾンビホラー
死者が甦る、あるいは感染によって人間が変貌する「ゾンビ」を主題にしたホラージャンルである。身体的恐怖に加え、社会秩序や人間関係の崩壊が描かれる点が特徴的だ。
ゾンビという存在は、集団性や感染力を持ち、文明社会の脆さや人間の本能を浮き彫りにする。極限状態における人間の行動や倫理観も、物語の焦点となる。
主な作品としては、確固たるジャンルを確立した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、感染パニックを描いた『28日後…』、社会風刺を含んだ『ショーン・オブ・ザ・デッド』などがある。
ゾンビホラー最新のおすすめ映画は、キリアン・マーフィー主演の『28日後…』シリーズの第3弾『28年後…』。
2025年6月20日日米同時公開予定!
7.フォークホラー
古くから伝わる信仰や迷信、民間伝承を題材に、孤立した村社会や田舎の共同体に潜む恐怖を描くホラージャンルである。舞台はしばしば田舎や閉鎖的なコミュニティであり、現代的価値観が伝統的な儀式や習俗と衝突することで、深い不安を呼び起こす。
本ジャンルでは、異教の儀式や祝祭、排他的な共同体の論理が重要な要素となり、合理主義では割り切れない出来事が起こる。人間の原初的な恐れや集団心理が、恐怖の根源となる点も特徴である。
主なおすすめ作品としては、異教の村を舞台にした映画『ウィッカーマン』、新興宗教と女性の心の崩壊を描いたホラー『ミッドサマー』、東欧の民話をもとにした『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』などがある。
8.ファウンド・フッテージ
“発見された映像”という体裁で物語が進行するホラージャンルである。手持ちカメラや監視映像、VHSなどを用いたドキュメンタリー風の演出により、現実との境界を曖昧にし、強い臨場感を生み出す。
リアリティを追求する構成ゆえに、撮影者や登場人物が事件の当事者であることが多く、観客は映像の“真実性”を疑いながらも引き込まれていく。視覚が制限されるカメラワークが、恐怖の想像を増幅させるのも特徴である。
主なおすすめ作品としては、低予算ながら社会現象となったホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、監視カメラによる日常の崩壊を描く『パラノーマル・アクティビティ』、感染パニックの記録『REC/レック』などがある。
9.ゴシックホラー
古城や廃墟、陰鬱な天候といった耽美的かつ退廃的な世界観の中で、超自然的な恐怖を描くホラージャンルである。18世紀後半から19世紀のヨーロッパ文学を起源とし、死や愛、狂気といったテーマが多く扱われる。
重厚な建築物や蝋燭の光、古めかしい衣装など、舞台装置が物語に独特の情緒を与える。幽霊や吸血鬼、亡霊といったクラシックな存在が登場することも多い。
主な作品としては、『オーメン』シリーズ、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』、幽霊屋敷を舞台にした『クリムゾン・ピーク』、吸血鬼の孤独な生を描く『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』などが挙げられる。
ゴシックホラーでのおすすめは、2024年に公開された前日譚映画『オーメン:ザ・ファースト』。ダミアン誕生前の物語を描く。
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10.実録ホラー
実際に起こった事件や未解決の怪奇現象を基に、現実味のある恐怖を描くジャンルである。観客の「これは本当に起こったのかもしれない」という感覚を刺激し、想像の枠を超えたリアルな恐怖を演出する。
オカルト現象から猟奇的な殺人事件まで題材は幅広く、再現ドラマや証言形式を用いた演出が特徴的である。登場人物の心理描写や資料映像風のカメラワークが、より強い没入感と臨場感を生み出す。
主な作品としては、心霊調査を描いた『死霊館』シリーズ、実在の怪奇現象に基づく『エミリー・ローズ』、実話を元にした殺人事件を描く『ゾディアック』などがある。
注目すべきおすすめ映画は、大人気ホラーシリーズ『死霊館』の完結編『死霊館4(原題)』。2025年米国公開予定で日本公開日は現時点で未定。
11.ホラーコメディ
恐怖と笑いを同時に描く、2つの感情を絶妙に行き来するハイブリッドなジャンルである。ホラーの定番要素をあえて誇張したり、皮肉を交えてパロディ化することで、ユニークな笑いを誘う。
血みどろのスプラッター描写やモンスターの登場といった恐怖演出が、シュールさやギャグと融合することで、ジャンルの枠を軽やかに飛び越える。ホラーへのメタ的視点も多く見られる。
ホラーコメディでの主なおすすめ映画は、ゾンビと日常を描いた『ショーン・オブ・ザ・デッド』、森で巻き起こる惨劇を笑いに変えた『キャビン』、過激な描写とスラップスティックな展開が魅力の『死霊のはらわたII』などがある。
12.SFホラー
未来の科学技術や宇宙探査、異星生命体、人工知能(AI)など、未知の領域を舞台にしたホラージャンルである。理性では説明しきれない恐怖を、科学的な前提のもとで描く点が特徴的だ。
SFホラーにおける恐怖の多くは、人類自身が作り出したテクノロジーや、自ら招いた環境の変化にある。宇宙や研究施設といった閉ざされた空間での極限状況が、人間の精神と文明の限界を浮き彫りにする。未知の存在との遭遇により、科学や文明の限界が露呈し、人間の本質が試されることも多い。
SFホラー作品の主なおすすめ作品としては、異星生命体と死闘を繰り広げる映画『エイリアン』シリーズ、AIの暴走を描いた『エクス・マキナ』、異次元と接触する『イベント・ホライゾン』、子どもを守るAI人形が引き起こす惨劇を描いた『M3GAN/ミーガン』などがある。
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13.クリスマスホラー
本来は祝祭の象徴であるクリスマスという舞台設定を逆手にとり、日常に潜む恐怖を描くジャンルである。幸福で安全と思われがちなシーズンとのギャップが、恐怖を際立たせる点が特徴的だ。
プレゼントや家族団らん、サンタクロースといったイメージが、突然の暴力や怪異によって汚染されることで、観客の常識や期待が崩される。ブラックユーモアや風刺的要素を含むことも多い。
主な作品としては、伝説の怪物を描いた『クランプス 魔物の儀式』、サンタクロースの姿で殺人を繰り返す青年を描いた『悪魔のサンタクロース 惨殺の斧』、可愛いペットが恐怖の元凶となる『グレムリン』(スティーブン・スピルバーグ監督)などがある。
このジャンルが好きな方に特におすすめなのは、スラッシャー × クリスマスホラーの映画『テリファー』シリーズ。
14.ティーンホラー
10代の若者たちを主人公に、恋愛や友情、反抗といった青春の要素と恐怖が交錯するホラージャンルである。成長の痛みや、社会への不安が物語に織り込まれる点が特徴的だ。
ティーンホラーでは、性、自由、責任といったテーマが死と結びつき、道徳的な教訓を含むこともある。ジャンプスケアやスラッシャー的展開が多く、ポップカルチャーとの結びつきも強い。
主な作品としては、殺人鬼と高校生たちの攻防を描いた『スクリーム』、夏の秘密が若者たちを襲う『ラストサマー』、恐怖の象徴“それ”に挑む子供たちを描いた『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』などがある。
ティーンホラーおすすめの注目作は、2025年夏に全米公開予定の『ラストサマー』の続編映画。日本での公開は現時点で未定。
15.ジャパニーズホラー
日本の伝承や都市伝説、因習的な文化背景をもとに展開されるホラージャンルである。見えない存在や呪い、恨みといった、科学では割り切れない恐怖を静かに、そして執拗に描く点が特徴的だ。西洋ホラーとは異なり、心理的な恐怖や緊張感の構築、超自然現象を重視する傾向が強い。
ジャパニーズホラーにおける恐怖の多くは、霊(幽霊)や妖怪、憑依、祓い、予知といった民間信仰の要素も色濃く反映されている。
主な作品としては、呪われたビデオテープをめぐる『リング』、強烈な怨念が連鎖する『呪怨』、怪異の真相に迫る『仄暗い水の底から』などがある。
今年のおすすめジャパニーズホラーといえば、配信作品として日本最大の実写ヒット作となった『ガンニバル』。
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