『ワンダーマン』『一流シェフのファミリーレストラン』もコメディ部門? エミー賞“ジャンル分け論争”をひもとく
エミー賞のコメディ部門をめぐる議論は、ここ数年ますます複雑になっている。今年は『エルズベス』や『ワンダーマン』、『スパイダー・ノワール』、『ウィドウズ・ベイ』といった作品が候補として注目を集める中、「何をコメディと呼ぶべきか」という根本的な問いに、テレビ業界はいまだ明確な答えを見出せていない。
本記事では、現地時間9月14日(月)に開催される第78回エミー賞授賞式に向け、コメディ部門をめぐる「ジャンル分け」の難しさについて解説する。
『一流シェフのファミリーレストラン』で再燃――エミー賞を悩ませる「コメディ部門」の定義とは?
ドラマの主役がテレビからストリーミング配信へと移り変わり、エミー賞は「コメディの定義」に頭を悩ませ続けてきた。Netflixのヒット作『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013年~)は1話約1時間という長尺で、比較的シリアスな要素も多く含みながら、第1シーズンがエミー賞コメディ部門にノミネートされ、大きな話題となった。
しかし翌年、テレビ芸術科学アカデミーは「1時間枠の番組はドラマとして扱うべき」との方針を打ち出し、同作はドラマ部門へ移ることになった。その結果、同作はエミー賞史上唯一、コメディ作品賞とドラマ作品賞の両部門でノミネートされた作品となった。
また「クレイジー・アイズ」ことスザンヌ・ウォーレン役のウゾ・アドゥーバは、コメディ部門とドラマ部門の両方で演技賞を受賞している。彼女は、深い哀しみとユーモアを同時に体現する演技を見せた。
同時期には、ウィリアム・H・メイシー主演の『シェイムレス 俺たちに恥はない』(2011年~)も議論の対象となった。同作は当初、ドラマ部門に出品されたが、その後コメディ部門へ変更。さらに再びドラマ部門への移行を求められるなど、分類をめぐって混乱が続いた。最終的にはテレビ局側の申し立てが認められ、コメディ部門での出品が継続された。
そもそも現在の米テレビ業界では、多くの作品がジャンルの枠を越え、トーンやエピソード尺の実験を積極的に行っている。こうした状況下で、作品を明確に分類すること自体が難しくなっている。2021年にアカデミーは方針を変更し、放送時間を判断基準から外した。
その後、2022年にFXで放送が始まった『一流シェフのファミリーレストラン』がコメディ部門で受賞すると、「あの作品は本当にコメディなのか?」という議論が再燃した。緊張感に満ちた厨房を舞台にした同作に対し、多くの視聴者が違和感を覚えたのだ。一方で、同作の第2シーズンはコメディ部門で『Hacks(原題)』(2021年~)に敗れ、作品分類の難しさを改めて印象づけた。

今年のコメディ部門候補作は?ジャンルを超えたドラマが集結
そして今シーズンは、さらにジャンルの境界が曖昧な作品が並んでいる。こうした状況は、テレビ業界において創作上の挑戦が依然として評価されていることを示している。同時に、各スタジオや配信サービスは、作品が最も評価されやすい部門を慎重に見極めようとしている。
もちろん、有力作品を有利な部門に出品しようとする戦略的な判断自体は、昔から存在する。しかし、今年の第78回エミー賞にノミネートされた作品群を見ると、「どの部門に属するか」という問題そのものが、以前ほど重要ではなくなっているようにも思える。むしろ、こうした議論が起こること自体が、各作品の独創性を証明しているのかもしれない。
リズ・アーメッド主演の『ベイト』はハリウッドを鋭く風刺した作品で、完結型の物語であることからリミテッドシリーズ部門に出品されている。
一方、ABCの犯罪捜査ドラマ『ハイ・ポテンシャル』(2024年~)は軽快な雰囲気を持ちながらも、現在もドラマ部門に分類されている。その一因として、主演のケイトリン・オルソンがコメディ作品で豊富な実績を持つことが挙げられる。
また今回、スーパーヒーロー作品に近い2作品がコメディ部門にエントリーしている。ディズニープラスの『ワンダーマン』は、ケヴィン・ファイギが製作総指揮を務めるマーベル作品。プライムビデオの『スパイダー・ノワール』は「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」の一角を担う作品だ。
前者は約30分のエピソード構成だが、後者は地上波ドラマ並みの長さを持つ本格刑事ドラマ風の作りになっている。それでも両作品には、アクションや緊迫した展開の中にユーモアと遊び心がしっかりと息づいている。
この春に口コミで人気を集めたApple TVの『ウィドウズ・ベイ』も、ジャンル分けの難しさを象徴する作品だ。人気シットコム『パークス・アンド・レクリエーション』(2009年~)にも参加した脚本家のケイティ・ディポルドが手がけた本作は、寂れた島の市長室を舞台とする職場コメディの魅力を備えている。
しかし、その真価は単純なジャンルに収まらない点にある。ユーモアだけでなく、本格的なジャンプスケアやゴシックホラーの要素も取り入れながら、登場人物たちの痛みや葛藤を丁寧に描いているのだ。
ディポルドは最近のインタビューで、「この作品のトーンにたどり着くまでには何年もかかりました。私にとって、この番組の核心にあるのは『人生は悪夢のようなものだ』という考え方です」と語っている。
エミー賞“受賞戦略”として部門変更する作品も
そして、もうひとつ注目されるのがCBSの『エルズベス』(2024年~)だ。同作は『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や『シェイムレス 俺たちに恥はない』と同様、放送途中で出品部門を変更した。同作はシーズン3以降、ドラマ部門からコメディ部門へ移行している。制作陣は、この変更がエミー賞での評価につながることを期待している。
『エルズベス』は、ロバート&ミシェル・キング夫妻が手がけた『グッド・ワイフ』と『グッド・ファイト』のスピンオフ作品だ。主演のキャリー・プレストンは、両作品で人気を集めたエルズベス・タシオニ役を再演。鋭い観察眼と独特な個性を持つ主人公は、シリアスな法廷ドラマの中でユーモアを担う存在だった。
プレストンは先月のインタビューで、率直な思いを明かしている。
「ドラマ部門で出品されると聞いた時、正直『それでは厳しいかもしれない』と思いました。こういう形で予想が当たるのは複雑な気持ちです。例えば、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年~)も同じ部門に出品されています。こうした作品と私たちが同じカテゴリーで競うのは違うのではないかと、誰もが感じたと思います」
さらに彼女は、コメディ部門へ移行した後、初の主要授賞式となった第31回クリティクス・チョイス・アワードで作品賞と主演女優賞にノミネートされたことについて、「自分たちの判断が間違っていなかったと感じられた」と振り返った。
こうした事例を見ると、「出品部門の選択」が作品の評価に大きな影響を与えることは間違いない。そして今年のエミー賞におけるコメディ部門は、これまで以上にジャンルの境界が曖昧になっている。アカデミーがこれらの作品をどのように評価するのだろうか。その結果は、テレビ業界における「コメディ」の定義を改めて考えさせるものになるかもしれない。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。
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