生成AI×映画制作 クリストファー・ノーランが語る「本物」が求められる時代
生成AIを映画制作にどう活用すべきか──。映画制作の現場では、生成AIをどこまで活用すべきかが大きなテーマとなっている。そうしたなか、アカデミー賞受賞監督クリストファー・ノーランが、生成AI時代の映画の未来について自身の考えを語った。
英紙『ザ・テレグラフ』のインタビューで最新作『オデュッセイア』への思いを明かすとともに、「若い世代はAIスロップを瞬時に見抜く」と指摘。さらに今年大ヒットを記録したホラー映画『オブセッション 災愛』と『バックルームズ』を称賛し、新世代の映画監督たちが映画文化を前進させているとの見解を示した。
生成AIと映画制作 クリストファー・ノーランが語る映画の未来

最新作『オデュッセイア』をPRするインタビューで、ノーランは映画というメディアの将来について前向きな見方を示した。
「映画は今も重要な存在であり、進化を続けています。優れた若い才能が次々と現れ、このメディアを自分たちのものとして発展させているのです」
その代表例として名前を挙げたのが、『オブセッション 災愛』のカリー・バーカー監督と、『バックルームズ』のケイン・パーソンズ監督だった。
ノーランは、この2作品の成功こそ「映画は正しい方向へ進んでいる」ことを示す証拠だと語っている。
『オブセッション 災愛』『バックルームズ』が映画界に新たな歴史

カリー・バーカー監督の『オブセッション 災愛』は、製作費わずか75万ドル(約1億1,000万円)ながら、世界興行収入4億ドル(約600億円)を突破した。
トロント国際映画祭で上映された後に配給権が取得された作品として史上最高興収を記録したほか、フォーカス・フィーチャーズ作品としても歴代最高のヒットとなっている。

一方、21歳のケイン・パーソンズ監督による『バックルームズ』は世界興収3億5,000万ドル(約525億円)を突破。A24作品として複数の国で歴代最高興収を更新し、パーソンズは全米興行ランキング首位を獲得した史上最年少監督となった。
クリストファー・ノーランは、「若い観客は集中力が続かず、3時間に及ぶギリシャ叙事詩など楽しめない――そんな議論を私は一度も信じたことがありません。『オブセッション 災愛』も『バックルームズ』も非常にミステリアスで、深く考えさせられる作品です。『バックルームズ』には、デヴィッド・リンチの最も難解な作品を思わせる場面さえあります。それでも若い観客は夢中になっているのです」と語った。
生成AIと映画制作 クリストファー・ノーラン「AIスロップは若い世代に見抜かれる」
インタビューで最も注目を集めたのが、生成AIについての発言だった。
映画制作の現場では、生成AIをどこまで活用すべきかが大きなテーマとなっており、ノーランもその議論に自身の見解を示した。
ノーランは、AI技術そのものを全面的に否定したわけではない。しかし、映画制作の現場における現在のAI活用には懐疑的な見方を示した。
「私の人生で、これほど急速かつ全面的に、『革命的な技術』とされたものが否定されるのを見たことはありません。生成AIの導入には膨大なエネルギーが費やされてきました。しかし、この世代の反応を見ると、彼らはそれを明確に拒絶しています」
さらに、自身の10代後半から20代前半の子どもたちの様子を例に挙げ、「AIスロップ」に対する若い世代の感覚を次のように説明した。
「彼らはAIスロップを見ると、すぐにそれが何なのか見抜きます。その判断は素早く、そして非常に厳しい。オンラインの世界で育ってきたからこそ、それを見分ける能力に長けているのです」

クリストファー・ノーラン「生成AIは映画制作にとって最悪のタイミング」
ノーランは、生成AIのあらゆる可能性を否定しているわけではないと前置きしながらも、映画制作という観点では現在の潮流と逆行しているとの見方を示した。
「技術のあらゆる側面が無意味だと言っているわけではありません。しかし映画制作においては、生成AIはまさに最悪のタイミングで登場しました。長年、映画はCGIを駆使したバーチャルな映像表現を追求してきました。その一方で今は、より触感があり、現実味を感じられるストーリーテリングへの関心が再び高まっています」
ノーランの発言は、近年ハリウッドで広がる「実在感」や「本物らしさ」を重視するクリエイティブ志向とも重なる。
THR取材でも浮かび上がったZ世代の“本物志向”
ノーランの見解は、米『ハリウッド・リポーター』が以前、Z世代の映画ファンを取材した際の声とも共通している。
ある若い映画ファンは、「観客全体、特に私たちの世代は、CGIを多用した作品に少し疲れてしまっています。マーベル映画のような大作が続いたことで、大作映画館へ足を運ぶ魅力を感じにくくなった人も少なくありません」と語っていた。
こうした傾向は、低予算ながら独創性の高い作品や、監督の個性が色濃く反映された映画が若い観客の支持を集めている理由の一つとみられている。
スティーヴン・スピルバーグも『オブセッション 災愛』を絶賛

新世代の映画監督を高く評価しているのはクリストファー・ノーランだけではない。
スティーヴン・スピルバーグも最近、『オブセッション 災愛』について「大好きな作品だ」と語り、100万ドル未満という低予算で作品を完成させたカリー・バーカー監督の手腕を称賛した。
現代映画を代表する二人の巨匠が同じ若手監督に注目していることは、映画界の世代交代が着実に進んでいることを示している。
次回作『オデュッセイア』は豪華キャストでホメロスの叙事詩を映画化

クリストファー・ノーランの次回作『オデュッセイア』は、古代ギリシャの詩人ホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』を原作とした歴史スペクタクルだ。
物語は、トロイア戦争を終えた英雄オデュッセウスが、妻ペネロペと息子テレマコスが待つ故郷イタケへ帰還するまでの長い旅路を描く。
主演を務めるマット・デイモンをはじめ、
など、ハリウッドを代表する豪華キャストが出演することでも注目を集めている。

ノーランは今回のインタビューで、世界各地でのロケや数千人規模のキャストを動員するなど、「本物らしさ」を徹底的に追求したことにも触れている。
生成AIが急速に普及する時代だからこそ、人の手による創造性やリアリティを重視した作品づくりへの関心は、今後さらに高まっていくのかもしれない。
生成AIと映画制作の関係は、ハリウッドだけでなく世界中の映画業界が直面する重要なテーマとなっている。クリストファー・ノーランの発言は、「AI」と「人間の創造性」がこれからの映画でどう共存していくべきかを問いかけるものと言える。
※本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。

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