サー・ジャッキー・スチュワート、約60年ぶりに富士へ 「Race Against Dementia」チャリティガラ開催
3度のF1世界王者、サー・ジャッキー・スチュワートが60年ぶりに富士の地へ帰ってきた。
静岡・富士スピードウェイホテルで2026年9月25日夜、認知症研究支援を目的とする慈善団体「Race Against Dementia(レース・アゲインスト・ディメンシア)」のチャリティガラディナー「FUJI 60 — Racing for Memory」が開催された。FIA世界耐久選手権(WEC)「6 Hours of Fuji」のレースウィークエンドの幕開けを飾ったこの夜には、WEC参戦チームやメーカー、ドライバー、モータースポーツ関係者に加え、日本のビジネス・文化関係者ら約105人が集結した。
主催は株式会社Hersey Shiga Global。Race Against Dementiaが日本でイベントを開催するのは今回が2回目。FIA世界耐久選手権との共催は初めてとなった。
スチュワートにとって、この場所は特別な意味を持つ。
1966年10月、当時27歳だったスチュワートは、完成からわずか9カ月の富士スピードウェイで開催された「富士200マイル」をローラT90で制覇。その60年後となる2026年、かつて勝利を刻んだサーキットに再び戻ってきた。
その後、スチュワートはF1世界選手権で3度の王座を獲得。さらに、ドライバーの安全性向上を求める活動にも長年取り組み、モータースポーツ界を代表する存在となった。
そして現在、彼が挑んでいるのは、サーキットとは別の「レース」だ。

1960年代、F1と映画が交差した時代
1960年代から70年代にかけて、F1やモータースポーツは単なる競技を超え、映画やファッション、社交界を巻き込む世界的なカルチャーへと広がっていった。
スチュワート自身も、その黄金期を象徴する人物の一人だ。
1966年にはジョン・フランケンハイマー監督の映画『グラン・プリ』が公開され、ジェームズ・ガーナー、イヴ・モンタン、エヴァ・マリー・セイントらハリウッドスターとともに、日本から三船敏郎も出演した。同作では実際のF1マシンとドライバーが撮影に参加しており、スチュワートも走行シーンを担当している。
1970年代に入ると、スティーヴ・マックイーン主演の『栄光のル・マン』が耐久レースの世界を映画に刻み、ロマン・ポランスキー監督は1971年のモナコGPでスチュワートに密着。その映像は後にドキュメンタリー『ウィークエンド・チャンピオン ~モンテカルロ 1971~』として公開された。
映画スター、王室、ドライバーが同じ場所に集った当時のモータースポーツ文化は、現在のF1を描いた映画やドラマにもつながっている。
2025年に公開されたブラッド・ピット主演の『F1®/エフワン』が世界的な注目を集めたことも記憶に新しい。半世紀以上前から続く「レースと映画」の関係は、今なお形を変えながらスクリーンの上で生き続けている。
その黄金期を、ドライバーとして駆け抜けた一人がスチュワートだった。
富士で語られた「もう一つのレース」

スチュワートがRace Against Dementiaを設立したのは2016年。妻レディ・スチュワートが認知症と診断されたことがきっかけだった。
Race Against Dementiaは、モータースポーツの世界で培われてきた「高い成果を追求する姿勢」「問題解決」「チームワーク」といった考え方を認知症研究に応用し、世界各地の若手研究者を支援している。
この夜、スチュワートはRace Against Dementia理事会議長を務める息子のマーク・スチュワート氏とともにステージに登壇した。
スクリーンには1965年のル・マン24時間レースや1966年の富士200マイルにまつわるアーカイブ映像・写真が映し出され、日本人写真家ジョー・ホンダ氏が富士で撮影した貴重なカットも紹介された。
マーク氏は、母の診断をきっかけに始まったRace Against Dementiaの活動について語り、モータースポーツから受け継いだ価値観として「チームワーク」「革新」「粘り強さ」「細部へのこだわり」の4つを挙げた。
認知症の治療法を探す道のりについては、まさに「耐久レース」のようなものだと表現。短距離の勝負ではなく、長い時間をかけてチームで挑み続ける研究の重要性を訴えた。
株式会社Hersey Shiga Global社長兼Ceremony株式会社社長の志賀司氏も歓迎の言葉を述べた。
ドライバーたちが寄贈、貴重なアイテムがオークションに

この夜のもう一つのハイライトとなったのが、耐久レース界から寄せられた貴重な品々によるチャリティオークションだ。
今回は会場内で競りを行うのではなく、全ロットをオンラインに掲載。WEC富士のレースウィークを通じて入札を受け付け、収益はRace Against Dementiaの活動に充てられる。
なかでも注目を集めたのが、ニック・デ・フリース選手が寄贈したヘルメットだ。
本人によるビデオメッセージとともに紹介されたヘルメットには、富士を象徴する桜、スチュワート家のタータン柄、そして日本の伝統技法「金継ぎ」をモチーフにした特別デザインが施されている。
さらにデ・フリース選手は、9月27日のWEC富士6時間でこのヘルメットを実際に着用。レース後に本人のサインを入れて落札者へ届けられるという、レースそのものとつながった特別なロットとなった。
Team WRTのアウグスト・ファルフス選手とアイアン・リンクスのマキシム・マルタン選手は、それぞれ自身が寄贈したレーシングスーツを手にステージへ登場。
プジョーからは、2025年シーズンのドライバー全員のサインが入った9X8ハイパーカーの実戦使用済みリアボディワークパネルが出品され、Stellantis Motorsportのチーム代表エマニュエル・エノー氏が紹介した。

1995年ル・マン、日本人初優勝の記憶も
日本のモータースポーツファンにとって特に興味深いロットとなったのが、関谷正徳氏の1995年ル・マン24時間レース優勝にまつわる品々だ。
1995年、関谷氏はマクラーレンF1 GTR(59号車)を駆り、日本人ドライバーとして初めてル・マン24時間レースを制覇した。
今回のオークションには、当時現地で取材していた写真家・蓮井幹生氏が優勝30周年を記念して制作した限定書籍『Jet Black 59』と、蓮井氏自身が手焼きしたオリジナルプリントを組み合わせた特別ロットが登場。関谷氏と蓮井氏、両者の直筆サインが入った2セットが用意された。

さらに、ゴールラインを通過した瞬間の59号車を再現したミニカーと同書籍を組み合わせた、一点ものの特別セットも出品された。
ステージでは、ゴードン・マーレー・オートモーティブ・ジャパンの石川健(イシカワ・ケネス)氏と蓮井氏が品々を紹介。関谷氏自身も会場に姿を見せ、写真にサインを添えるなど、1995年のル・マンから31年後となる2026年の夜に、当時の記憶を現在へとつないだ。
このほか、山梨のワイナリー「Sollevigna」による初ヴィンテージのワイン3本セット、トヨタのGR010 HYBRIDで実際に使用された鍛造RAYS製ホイール、2026年ル・マン24時間レースのサイン入りグッズなども出品された。
三味線と振袖が彩る、富士の特別な夜
モータースポーツ関係者が集う夜に、日本文化も華を添えた。
ディナーの幕開けを飾ったのは、津軽三味線奏者・川崎まなみ氏による演奏。全国津軽三味線コンクールのデュオ部門で2025年に3年連続優勝を果たした実力者が、会場に力強い音色を響かせた。
さらに、Tstyleのゲストとして振袖姿の女性4人が登場。国際色豊かなゲストが集う会場に、日本ならではの華やかさを添えた。

ゲストは、スチュワートの1966年富士200マイル制覇から60周年を祝して乾杯。
翌日のFIA 世界耐久選手権富士6時間レースを控えていたTeam WRTのドライバー、ダレン・レオン選手はこの日が誕生日。ステージから祝福を受け、会場はひときわ温かな雰囲気に包まれた。

そしてスチュワートは、ディナーの間も会場を離れることなくゲストとの交流を続けた。
集合写真の撮影前には、一人ひとりと言葉を交わす姿も見られた。
1966年、27歳の若きドライバーとして富士の表彰台に立ったスチュワート。
60年後の2026年、再び富士に立ったスチュワートが挑んでいるのは、かつてのように勝敗を競うレースではない。
「記憶」を守り、未来へつなぐための、もう一つの長いレースだ。

■オンラインチャリティオークション
入札締切:2026年9月27日(日)午後9時(日本時間)
Race Against Dementiaへの支援を目的とした今回のオークションには、WECドライバーやチーム、メーカーから多数の特別アイテムが寄せられている。
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