【インタビュー】『アン・リー/はじまりの物語』モナ・ファストヴォールド監督が語る、アン・リーの人生を描いた理由とは「歴史の陰に隠れた存在に光を当てたい」
読み書きもままならず、移民としてアメリカへ渡り、自らの手でユートピアを築いたアン・リーという一人の女性がいた。
シェーカー教団の指導者となる彼女は、女性が自らの意思で生き方を選ぶことさえ容易ではなかった18世紀に、独身主義を掲げ、人種や男女の平等を説き、共同体の理想を追い求めた。
6月5日より公開される『アン・リー/はじまりの物語』は、そんなアン・リーの激動の人生を描いた作品だ。
監督を務めたモナ・ファストヴォールドは、従来の伝記映画の枠を超え、歌やダンスを織り交ぜながらアン・リーの力強い生き様を鮮やかに描き出している。
今回、ハリウッド・リポーター・ジャパンはモナ・ファストヴォールド監督に単独インタビューを実施。
アン・リーの人生を描いた理由、主演アマンダ・セイフライドとの制作秘話、そして今の時代にアン・リーの物語を語る意義について話を訊いた。
「歴史の陰に隠れた存在に光を当てたい」18世紀を生きたアン・リーへの想い
——本作を通してアン・リーという女性が18世紀にいたことを初めて知り、その生き方に心を動かされました。監督はアン・リーのどのような部分に惹かれ、映画として描こうと考えられたのでしょうか。
『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』のリサーチをしているときに、アン・リーの存在を知りました。私は以前からアメリカの歴史を学ぶことが大好きでした。彼女の人生を知ったとき、「アメリカにおける最初のフェミニストだったのでは」と考えるようになったんです。
当時は、人種や男女の平等という考え方自体が存在していません。奴隷制度や魔女狩りもまだ続いていましたよね。そのような時代に、人類の平等を説いたアン・リーの生き方を知ったとき、「なんて革新的で魅力的な女性なんだろう」と強く惹かれたんです。その一方で彼女の存在を知る人はほとんどいません。歴史の陰に隠れてしまった彼女に光を当てたい。その想いが作品を作ろうと決意した大きな理由です。

——18世紀に独身主義を掲げ、人種や男女の平等を訴えたアン・リーは、想像を絶する困難に直面したのではないかでしょうか。監督は「アメリカにおける最初のフェミニストだったのでは」と仰っていましたが、そうした先進的な思想を持つアン・リー対してどのような想いを抱いたか詳しく教えてください。
調べれば調べるほど、彼女の人生の奥深さに魅了されていきました。アン・リーの物語を語るのであれば、まずは生涯を通して描く伝記映画がふさわしいと考えたんです。特に映画監督として創作意欲を刺激されたのは、シェーカー教徒の祈りの儀式です。彼らは歌や恍惚としたダンスで礼拝をしていました。こうした独創的な信仰を加えていくことで、従来の伝記映画の枠組みを超え、自由で詩的な表現へ導いてくれると考えたのです。こうした新しい挑戦は、映画監督としての醍醐味でもあります。
作品を描くにあたって気を付けたのは、自分自身の価値観で彼女を裁かないことでした。アン・リーは先進的な思想や生き方ゆえ、多くの批判や偏見の目を向けられてきた女性です。だからこそ、アン・リーと同じ目線で旅をして彼女の思想や人生に耳を傾けていくような作品にしたかった。
批判したり神格化しすぎた描写は一切入れていません。彼女は矛盾や不完全さを抱えながら生きた、一人の人間だからです。だからこそ先入観を持たずに彼女の人生に寄り添いたいと思いました。宗教を扱った作品ではありますが、一人の女性の人生を描いた映画にしたかった。

——アン・リーに関する文献や資料が限られている中で、どのようにキャラクター像を作り上げていったのでしょうか。
まず最初にアン・リーを知る人々が書いた証言集を読みました。その後に1800年代と1960年代に書かれた伝記、あとは「Ann the Word」という伝記にも目を通しました。こうした4つの資料と伝記を参考にしましたが、内容には食い違う部分もありました。その後、シェーカー教徒の方々に協力してもらいアーカイブに保存されていた資料を見せてもらったんです。
リサーチする中で分かった事実は、アン・リーは4人の子どもを出産し、そして全員が幼くして亡くなってしまったこと。また、彼女が亡くなった際に頭蓋骨には何度も骨折した形跡があり、結婚生活が平穏なものではなかったことが分かりました。
こうした史実を調べた後は、アン・リーの人生と対話しながら私自身の解釈を織り込んで創作していったんです。
▼『アン・リー/はじまりの物語』【世界観の構築】特別映像
アマンダ・セイフライドと見つけたアン・リーの歌声
——アン・リーは先進的な思想を持ち、礼拝で身体を激しく揺らして祈りを捧げることで知られるシェーカー教の指導者です。そんなアン・リーを演じたアマンダ・セイフライドとは、役づくりについてどのようなヴィジョンを話し合いましたか。
撮影が始まる1年前から、アマンダとは音楽制作を進めました。シェーカー教の賛美歌を聴きながら話をしたり、アマンダがピアノを弾いたりして、シェーカー教の世界観を確認していったんです。その後に、作曲家のダニエル・ブルームバーグが制作に参加しました。
私自身がずっとダンスに携わってきたので、身体を使って内面を表現する重要性を理解しています。本作は歌や音楽が身体表現と密接につながっている作品なので、並行して作り上げていく必要がありました。
映画を観れば分かるように、従来のミュージカル映画のように突然歌唱シーンが始まる演出はしていません。物語の中に歌や踊りが自然に生まれストーリーへ溶け込んでいくことを大切にしました。
アマンダはこれまでミュージカル作品で素晴らしいパフォーマンスを披露してきましたが、今回は“演じている”という意識を忘れてほしかった。演技ではなく感情が身体の動きへと自然とつながっていく。そうしたあり方を表現するために、アマンダは自らの内面と深く向き合っていきました。そうした積み重ねの末、彼女はこれまで自分の中で眠っていた新たな歌声を見つけたのです。

——アン・リーが4人の子どもを亡くしたシーンは、人生観を大きく変える出来事であり、その後の信念を形づくる重要な場面だと感じました。精神的にも肉体的にも負荷の大きい撮影だったと思いますが、どのように撮影を進められたのでしょうか。
作品の中でも難しいシーンのひとつでした。アマンダも私も、アン・リーの経験を余すことなくありのまま届けなければいけないと考えました。彼女の出産から耐え難い喪失まで、観客がしっかりと寄り添えなければ、なぜ彼女がその選択や信念を選んだのかが共感できなくなってしまう。
出産はアン・リーの人生を語るうえで避けて通れない出来事だったので、目を背けることなく向き合っていきました。撮影はアマンダが安全に演じられる環境づくりを最優先にしています。振付については、私の中で初期の段階からイメージがはっきりと見えていました。頭の中で思い描いた通りに、映像へ落とし込むことができたと感じています。

アン・リーの身体表現は、精神状態や心情に合わせて変化していきます。妊娠中の高揚感や未来への希望、子どもを失った悲しみ、そして最後は一人で抱える孤独と喪失。それぞれの感情の揺らぎを身体で語るため、一つひとつの動きを細かく構築していったんです。
これらの表現を見つけるのは簡単なことではありませんでした。何度もスタジオに通い、喜びと恍惚、喪失と美しさ、そうした相反する感情をどうしたら両立できるのかを探り続けたんです。そして最終的に、すべてを内包する歌声をアマンダとともに見つけ出し、彼女はその複雑な感情の揺らぎを見事に表現してくれました。
今の時代だからこそ語られるべき意義とは
——多くの過酷な経験をし、独身主義を掲げたアンにとって、弟ウィリアムの存在は大きな支えになったはずです。本作はアンの物語であると同時に、リー兄妹の物語でもあるように思えました。ウィリアムをどのように描いていったのでしょうか。
仰る通りで、私はアンとウィリアム姉弟の関係をひとつの純粋なラブストーリーと捉えていました。2人の絆こそが作品の核になるべきだとも感じていたんです。それほどまでに、2人の無条件の愛が真っすぐで美しかった。

ウィリアムを演じたルイス・プルマンは、脆さや優しさを繊細に表現してくれました。私がリー兄妹に惹かれたのは、最初に読んだアン・リーの証言集がきっかけでした。彼女を知る人々の言葉から2人の間に特別な絆があったことを感じ、どうしても描きたかった。アン・リーの物語は、喪失や苦しみに満ちた側面を持っていますが、2人の絆から優しさや温もりをもたらせると確信したんです。

——アン・リーが生きた18世紀と比べると社会は大きく変化しましたが、いまだ女性に対する目に見えない抑圧は残っています。本作を今公開することにどのような意義を感じていますか。
実は脚本を書いていた頃から、現代にも通じる普遍性があると感じていました。撮影を進める中で、アメリカだけでなく世界中で直面している問題と重なっていることも強く実感していったんです。
アン・リーが残した言葉は、現代を生きる私たちにとって色褪せることなく心を動かす力がある。一方で、「こんなに時代が進んだのに何も変わってないのか」と失望を感じたのも事実です。
それでも私たちは前へ進み続けるしかありません。だからこそ、この作品が過去の物語として終わるのではなく、これからを生きるための光や希望になってほしい。
アン・リーは、時代を超えて人々に希望を与える存在です。読み書きもままならなかった女性が、移民としてアメリカへ渡り、人種や男女の平等を説き、自らの手でユートピアを築き上げた。その生き方から、どんな困難な時代や境遇に生まれたとしても、未来を切り拓く力が人にはあることを思い出させてくれる。アン・リーの物語は、今の時代だからこそ語られるべき意義があると確信しています。
【作品情報】
『アン・リー/はじまりの物語』
2026年6月5日(金)公開
- 邦題:『アン・リー/はじまりの物語』
- 原題:The Testament of Ann Lee
- 監督/脚本/製作: モナ・ファストヴォールド
- 脚本/製作: ブラディ・コーベット
- 音楽: ダニエル・ブルームバーグ
- 出演: アマンダ・セイフライド、ルイス・プルマン、トーマシン・マッケンジー ほか
- 配給: サーチライト・ピクチャーズ
- 公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/annlee
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