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【インタビュー】『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグが語る、「祈りを体験させる」音楽制作の裏側と音の可能性

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『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
ダニエル・ブルームバーグ 写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved
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実在の宗教指導者アン・リーの激動の半生を描いた『アン・リー/はじまりの物語』が、6月5日より劇場公開される。

監督を務めたのは、『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』のモナ・ファストヴォールド。主人公アン・リーをアマンダ・セイフライドが演じる。

18世紀のイギリス、貧しい鍛治職人の家に生まれたアンは信仰心の厚い女性として育つ。4人の子どもを授かるも、全てを幼くして失うという悲痛な体験の中、自らが“キリストの女性の姿の生まれ変わり”である、確信的な啓示を得る。彼女の性別、人種の平等を説く生き方は多くの人々を惹きつけていくのだったが、反感や警戒を感じる勢力から苛烈な迫害を受けていく。

本作は、18世紀に人種や男女の平等を説き、シェーカー教団の指導者となった実在の女性アン・リーの人生を描いた歴史劇。シェーカー教団は、激しく身体を揺らしながら恍惚とした踊りで礼拝を行うことで知られている。

そんなシェーカー教団の賛美歌を大胆に再解釈し、その鮮烈な世界観に圧倒的な生命力を吹き込んだのは、『ブルータリスト』で第97回アカデミー賞®作曲賞を受賞した作曲家ダニエル・ブルームバーグだ。

この度、ハリウッド・リポーター・ジャパンは、作曲家ダニエル・ブルームバーグに単独インタビューを実施した。

「物語をただ見るのではなく、祈りを体験してほしい」と語るダニエル。

その没入感あふれる音楽が生まれるまでの舞台裏から、アマンダ・セイフライドとの制作秘話、そしてダニエル自身も歌唱しているエンドクレジット曲「Clothed By The Sun」に込めた想いまで語ってくれた。

詩的な世界観を支えた音楽とは

——モナ・ファストヴォールド監督と共同脚本・製作のブラディ・コーベットとは『ブルータリスト』でもタッグを組まれていましたが、本作で音楽制作を務めることになった経緯を教えてください。

モナとは『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』でタッグを組んでいて、当時から本作の脚本や構想について共有してくれていました。

完成した脚本を受け取ったときは、ちょうどブラディ・コーベット監督の『ブルータリスト』の音楽制作を手がけていて、制作を終えてすぐに参加したんです。

——脚本を読んだとき、最初に浮かんできたイメージや音はどんなものでしたか。

まず最初に強く惹かれたのは、音が持つ可能性でした。シェーカー教団が形作られていく初期からストーリーが始まるる物語に、創作意欲を刺激されました。脚本から浮かんできたイメージは、即興ボーカリストであるフィル・ミントンとマギー・ニコルズが生み出す声や世界観です。

音の持つ可能性をどう表現していくかを考えたとき、大きな軸になったのは、フィル・ミントンが生み出す自由な音と、アマンダの美しくて透明感のある声でした。この2つの要素を、エレガントに融合できたら素晴らしいのではないかと構想していったんです。

シェーカー教徒については、最初は実験的で混沌とした状態から、新天地に行き根を築いていくにつれ、歌い方や音楽も洗練されていく。彼らの旅路を音楽で表現してみようと思いました。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

アマンダ・セイフライドと創作した「祈りとしての歌声」

—アン・リーは18世紀に独身主義を掲げ、人種や男女の平等を説いていました。アン・リーという人物像をどう捉え、音楽で表現していったのでしょうか。

作曲家としての役割は、監督が描いたヴィジョンを音楽で支えることだと考えています。そういう意味で、モナが示してくれる方向性が大きな指針となりました。

大きな課題だったのが、数千曲も存在しているシェーカー教団の賛美歌を、どこまで作品に反映していくかという点です。伝統的な素材をどこまで正確に扱うべきか、そのバランスと丁寧に向き合っていきました。

今回は、僕のソロ・アルバム『Minus』や『On&On』を制作したときと似た感覚がありました。どちらも即興演奏を大切にしながら制作した作品です。僕がソロで手掛けている音楽制作と同じ方法で取り組んでいきました。

振付師セリア・ロールソン=ホールとも共同制作を始めました。セリアが振り付けしたシェーカー教団のダンスを見ていたら、伝統的な形式美や表現主義的なものを感じました。その感覚から、歴史を再現したドキュメンタリーではなく、より詩的な世界観へ昇華できないかと考えたんです。

あとは、実際のシェーカー教徒の動きを参考にして、映画としてのストーリーテリングの役割も意識しました。そうした積み重ねから、ダンスと音楽が共鳴して、詩的な世界を構築していったんです。

僕は音楽や音には詩的な可能性が秘められていると考えています。映像を見ているだけでは捉えられない情緒や、言葉では伝えきれない余韻。でも音楽なら、情緒や余韻を伝えることができる。それが音楽が持つ強みだと思います。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

「物語をただ見るのではなく、祈りを体験してほしい」

——アマンダ・セイフライドや ルイス・プルマンをはじめ、キャスト陣が歌うシーンが多く登場します。先ほどお話された詩的な世界観を表現しながら、同時にシェーカー教の祈りとしての歌声も表現するという課題があったと思います。声の表現については、どのようなアプローチをしたのでしょうか。

撮影に入る何ヶ月も前からモナと一緒に制作を進め、撮影地のブダペストにキャストが来てすぐに、歌声の録音をスタートしました。制作できる時間が限られていたので、アマンダの撮影後やオフの日など、わずかな時間を使って進めていきました。

そのおかげで、アマンダやモナとは密に向き合いながら制作を進めることができました。通常、オリジナル楽曲や劇中で流れる音楽は、映画が完成した段階で最後に追加していきます。今回は映像と音楽を同時に制作していったので、現場の空気感を感じられ、理想的な環境になりました。

こだわった点は、マイクを色んな場所に設置して、祈りやダンスから発せられる音を録音したことです。その中で考えていたのは、「登場人物の声や祈りはどこから生み出されているのか」ということでした。彼らの内側から湧き上がるものなのか、大きな存在から啓示を受けて発しているのか、祈りが生み出される源を常に確認していきました。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

声や祈りを観客にどう届けるのかも重要でした。ただ聴かせるのではなく、観客が祈りの中へ没入していく感覚を生み出したかった。

その視点を象徴しているのが、船のシーンです。「All is Summer」をアカペラで歌い始める冒頭は、あえて音程を外し不安定な歌声にしました。シェーカー教徒たちを見つめる船員たちに近い視点から、観客が「彼らを外側の存在」として見つめる効果を狙いました。

そこから次第に、歌声には深いリバーブ(残響)が重なっていき、一音も外すことなく祈りに包み込まれる響きへと変化していきます。こうした変化をつけることで、観客は祈りとしての歌を楽しみながら、同時にそのシーンへと没入していく。物語をただ見るのではなく、音楽を通して体験することができるんです。映画ならではの魅力だと思います。

——アン・リーが4人の子どもを出産し、深い喪失を経験するシークエンスでは、楽曲やアマンダの歌声が非常に繊細に描かれていました。このシークエンスでは現場で即興演奏も取り入れていったのでしょうか。

このシークエンスに登場する「Beautiful Treasures」と「Hunger & Thirst」の2曲は、作品全体の流れを考える上でも非常に重要な楽曲でした。2曲続けて歌うアマンダにとっても、大きな見せ場となるソロ曲です。

「Beautiful Treasures」は、現実としっかり結びついた感覚を持つ楽曲です。一方、「Hunger & Thirst」では、アン・リーが神の啓示を受け、超越的な感覚へと向かっていく。

シリアスな題材を扱っているからこそ、感傷的になりすぎない音楽を意識しました。何より大切にしたのは、アン・リーの喪失に敬意を持って歌うことでした。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

呼吸や吐息までマイクで拾い、リアルな質感を大切にしました。歌いながら激しいダンスをするので、歌声がクリアに録れない部分もありましたが、その生々しさも含めてこの作品にぴったりだと思いました。

即興という点では、歌って踊ると変化していく呼吸や吐息まで、音として拾うようにしたんです。

叫び声をどう表現するかも大きなポイントでした。痛みから生まれているのか、性的なものなのか、同じ叫び声でも意味合いは変わってきます。その都度、どんな感情から発せられている声なのかを丁寧に確認していきました。

「 Beautiful Treasures」はアン・リーが幼い頃、母親が歌っていた曲でもあり、本作のメインテーマのような位置づけになっています。即興ボーカリストのシェリー・ハーシュと制作しましたが、シェリーはアマンダに身体表現や歌のワークショップも行ってくれたんです。こうした実験的なアプローチに、アマンダは柔軟に向き合ってくれました。

▼【アマンダ・セイフライド魂の演技】特別映像

エンドクレジット曲「Clothed By The Sun」に込めた想い

——エンドクレジットで流れる「Clothed By The Sun」では、アマンダさんとダニエルさんご自身も歌唱しています。アン・リーの人生に想いを巡らせるような、深い余韻を残す楽曲でした。この曲はどのような着想から生まれたのでしょうか。

今言ってくださった感想が、まさに僕が目指していたことなんです。実は当初、エンドクレジットでは歌唱する楽曲を制作する予定ではなかったんです。モナと僕は、以前『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』でジョセフィン・フォスターの楽曲をエンドクレジットで使用した経験があります。

今回は劇中に多くの楽曲が登場するので、エンドクレジットに曲は必要ないと思っていたんです。でも、アマンダとモナが「何か書いてほしい」とずっと言ってくれて。制作の合間にちょうど時間ができたので、自分のスタジオへ行き、一気に書き上げたのが「Clothed By The Sun」でした。

僕の経験上、短時間で書き上げた曲は、心から納得できるものが多いんです。長い時間、本作と向き合ってきたことで、映画が持つエネルギーが深く染み込んでいたんだと思います。映像に合わせてみたら、不思議なくらいぴったりとハマったので手応えを感じました。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

「Clothed By The Sun」はアン・リーの人生に想いを馳せながら余韻に浸る曲であると同時に、物語が過去のものではなく、現代へと繋がっていって欲しいという想いも込めました。

劇中に登場する楽曲と比べると、ゆったりした曲調になっています。アン・リーが生きた18世紀から、私たちが生きる現在へと繋いでいく、そんな橋渡しのような役割を目指しました。

この曲はアマンダのために書いた楽曲です。アン・リーの過酷な物語を経てエンドクレジットへとつながるので、従来のものとは違う“何か”が必要だと感じていました。そこでアマンダには、劇中でのマンチェスター訛りではなく、彼女本来のアメリカ人としてのアクセントで歌ってもらったんです。そこに僕の声も重ねていきました。

シェーカー賛美歌を現代へ「マーク・ホリスのアンプを使ったんだ」

——シェーカー教の賛美歌を現代的に再解釈したそうですが、楽曲にエレキギターを使用したのも現代的なアプローチだったのでしょうか。 それとも他に意図があったのでしょうか。

モナとブラディが書いた脚本に、「エレキギター」って書いてあったんだ(笑)。2人の脚本を読むと、「このシーンはこんな方向性で」と設計図を受け取った気分になるんですが、今回もそうでした。「なるほど、今回はこういうアプローチなんだな」と感じながら制作を始めました。

特に日食のシーンでは、エレキギターの音が映像と見事に呼応しました。当時の人々にとって日食は、世界の終わりを予感させる混乱と恐怖を感じる出来事です。激しさと荒々しさを持ったエレキギターの音が、見事にフィットしたと感じています。

『アン・リー/はじまりの物語』作曲家ダニエル・ブルームバーグにインタビュー
『アン・リー/はじまりの物語』より ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

ルイス・プルマンの歌唱曲「Bow Down O Zion」では、インディー・ロック・バンド「ロウ(Low)」のアラン・スパーホークがバックボーカルとして参加しています。ロウのボーカリストのミミ・パーカーは、残念ながら亡くなってしまいました。アランの妻であり、長年にわたって音楽活動を共にしてきたかけがえのないパートナーでした。

ミミはアマンダが尊敬していたアーティストでもあり、今回の楽曲制作でも大きな刺激を与えてくれた。ロウはルイスが長年大好きなバンドだったので、アランが参加してとても喜んでいました。

もう一つ裏話をすると、日食のシーンで使っているギターアンプは、「トーク・トーク」のマーク・ホリスのアンプなんです。偶然手に入れて、最初に録音したのがこのシーンでした。インディー・ロックやエレキギターが好きな人には、興味深いエピソードかもしれません。

【作品情報】

『アン・リー/はじまりの物語』
6月5日(金)公開

  • 邦題:『アン・リー/はじまりの物語』
  • 原題:The Testament of Ann Lee
  • 監督/脚本/製作: モナ・ファストヴォールド
  • 脚本/製作: ブラディ・コーベット
  •  音楽 ダニエル・ブルームバーグ
  • 出演: アマンダ・サイフリッド、ルイス・プルマン、トーマシン・マッケンジー ほか
  • 配給: サーチライト・ピクチャーズ
  • 公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/annlee
    ©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

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