米『ハリウッド・リポーター』の批評家が選ぶ、2024年上半期の映画10本 ― 濱口竜介監督『悪は存在しない』ほか
米『ハリウッド・リポーター』の批評家4人が、2024年上半期のお気に入りの映画を選出した。
1.『チャレンジャーズ』
スマートかつ魅惑的で、ルカ・グァダニーノ監督作のなかで最も純粋に楽しめる作品。元親友の2人がコート上で繰り広げるライバル関係と、ケガによってキャリアが閉ざされた冷静沈着な女性への欲望のせめぎ合いを描いた、ダイナミックな三角関係ドラマだ。
主演のゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・ファイストのケミストリーが最高。(デヴィッド・ルーニー)
2.『墓泥棒と失われた女神』
イタリア人監督、アリーチェ・ロルヴァケルによる奇妙で叙情的な本作は、エトルリア人の遺物を掘り起こし、それを売って金を稼ぐ墓泥棒たち(トンバローリ)の物語。ジョシュ・オコナーは、お宝が眠る場所を発見する能力を持ち、トンバローリから神秘的な存在と見なされているイギリス人の主人公を見事に演じている。(ルーニー)
3.『悪は存在しない』
アカデミー賞受賞作『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督による、じわじわと胸に迫るドラマ作品。グランピング場の建設を計画する東京の企業と、暮らしを脅かされる田舎の町民たちの対立を描いている。両者が落とし所を探り、努力しているように思えるなか、催眠術のような勢いと静かな恐怖感が忍び寄ってくる。(ルーニー)
4.『人間の境界』
ポーランドのベテラン監督、アグニエシュカ・ホランドによる、非常に感動的で完璧な群像劇。モノクロで撮影され、2021年にベラルーシからEU加盟国のポーランドに渡ろうとする様々な国の難民を追う。
緑の国境(=原題のGreen Border)の両側で待ち受ける警備隊たちの「人間交換ゲーム」の駒となる、悲劇的な運命を背負った登場人物たち。見ているだけで打ちのめされるが、映画作品としては大成功だ。(レスリー・フェルペリン)
5.『インサイド・ヘッド2』
約10年の時を経て、新たな顔ぶれが揃う製作陣による続編が、前作の魔法と人間味を再現することはできるのだろうか?しかし、子どもからティーンへの成長は、作品をより向上させたかもしれない。少女ライリーの頭の中で葛藤する感情たちを描くピクサー作品で、続編で13歳になった彼女には、新たな感情たちが出現する。(ルーニー)
6.『僕はキャプテン』
強烈ながらも、希望にあふれたイタリアのマッテオ・ガローネ監督作。主人公のセネガル人青年(新人俳優セイドゥ・サールの演技が素晴らしい)が故郷を離れ、ヨーロッパへと向かう姿を描く。
主人公の純真さを焼き尽くす冒険には、吐き気を催すような恐怖の瞬間が散りばめられているが、同時にうっとりするような美しさと優雅さも備えている。(フェルペリン)
7.『I Saw the TV Glow』
気鋭俳優ジャスティス・スミスが、クールな年上の女の子(ブリジット・ランディ=ペイン)との友情と、SFテレビ番組に安らぎを見出す孤独なティーンエイジャーを演じている。グレッグ・アラキの初期作や『ドニー・ダーコ』を彷彿とさせる作風で、思春期の苦悩をテーマにしたドラマ作品。
現実世界で居場所を感じられないときに逃げ込む場所、そして空想にも限界があるという残酷な事実について描いている。(ジョーデイン・サールズ)
8.『パワー: 警察権力の本質を問う』
現代アメリカ警察による暴力の起源とその意味を掘り下げる、ヤンス・フォードの痛烈なNetflixドキュメンタリー。アーカイブ映像、作家や学者へのインタビュー、モンタージュなどを駆使して、“奉仕し、守る”と主張する組織を徹底検証している。
その結果、警察権力をほぼ絶対的なものとして定義する政府の一連の選択によって進行した腐敗が織りなすタペストリーが完成した。(サールズ)
9.『地上の詩』
古典ペルシャ詩の押韻の複雑さに触発された共同監督、アリ・アスガリとアリレザ・カタミは、簡潔かつエレガントな現代的作品を作り上げた。バラバラのエピソードを積み重ねながら、官僚や権力者の説得を試みるテヘランの人々を追う。
主人公たちが直面する状況はイラン特有のものだが、エスカレートしていく狂気は普遍的なものだ。この映画は、暴君的な制約の不条理さに対する悲しみと憤りで脈打っている。(シェリ・リンデン)
10.『Wildcat』
イーサン・ホークが監督を務めた本作は、作家フラナリー・オコナーを描いた作品。視覚的な優雅さ、オコナーの人生と著書の間を行き来する刺激的な飛躍、そしてマヤ・ホークとローラ・リニーの遊び心のある演技の激しさによって傑出している。ニュアンス、ディテール、創造力に富んだ、稀に見る素晴らしい文学映画だ。(リンデン)
※初出は、米『ハリウッド・リポーター』(6月19日号)。本記事は英語の記事から抄訳・要約しました。翻訳/和田 萌
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